朝食は冷やし茶漬け、昼食はサラダうどんにした。

昼食後、僕は食器を洗ったあとに手を洗った。流し台では、義雄が昼食を作る間に五分程沸騰させてくれた水の入ったやかんが氷水に浸けられている。蓋はそばに置かれており、やかんからはもう当然湯気は立っていない。

僕は取っ手の下に手を翳した。熱さは感じず、むしろ微かに冷気を感じた。

僕はやかんの水をグラスに適量注いだ。新品同様の状態であった、緑でグラデーションが為されたグラスを選んだ。他に涼し気な絵柄のグラスもなかった。

お盆に、抹茶茶碗と茶筅、茶杓、抹茶、氷を載せた小皿、水の入れたグラスを載せて自室に入った。「わあ」と薫子は花のような笑顔を見せる。

「もう……こんなに幸せでいいんでしょうかね。申し訳なくなってきます」

「これくらいで罪悪感なんか抱かないで」

僕は薫子と自分の間にお盆を置き、「あっ」と声を漏らした。

「どうしました?」

「羊羹忘れた。なんか忘れてるかなとは思ったんだけど」

本当にこういう奴になっちゃだめだよと苦笑して僕は部屋を出た。