薫子はベッドに腰掛け、不苦郎君を抱いた。

「いやあ、幸せな誕生日でした」

僕は布団を敷き、その上にあぐらをかいた。

「大したことはできなかったけどね。そう言ってくれると嬉しいよ」

「とんでもない。お味噌汁絶品でしたよ」

そうかと僕は笑い返した。携帯電話を確認し、金曜日かと呟く。

「明日か明後日、またどこか行く?」

「ああー……どうしましょうねえ……」

「特になければ、お茶でも飲む?」

「お茶……ですか?」

「うん。薫子、抹茶に興味があるって言ってたでしょう」

「ええ、まあ……」えっ、と薫子は声を上げた。「京都連れて行ってくれるんですか? 宇治?」

いやいや、と僕は苦笑した。「なんかすっごいハードル上がっちゃったね。僕、抹茶点てられるからさ。よかったらと思って」

薫子は目を輝かせた。「恭太君、お抹茶点てられるんですか?」

「いや、言っても、まともにやってたのは十年近く前のことだけどね」

「茶道習ってたんですか?」

「そんな大層なものじゃないよ」

「そうなんですか? でも、恭太君のお抹茶、是非頂きたいです」

頬が緩むのを感じた。「そう。じゃあ、明日にでもやろうか。夏だから冷たいやつね」

「冷たいお抹茶なんかもあるんですか」

「そう。おいしいよ」

「へえ、楽しみです」薫子は不苦郎君を抱いたまま寝転んだ。「長い夜になりそうですね」

僕は「消すよ」と言って照明を常夜燈に変えた。「抹茶はあまり期待しないでね」と苦笑して寝転び、暗い天井を眺める。