「嘘でも嬉しいよ」と義雄は笑う。

「こんな嘘、ついたって僕にいいことなんかないよ」本音だと言いいながら、僕は器に切ったにがうりを移した。

鰹節からもだしを取り、人参、玉ねぎ、じゃがいもをそれぞれ適当に切ってだし汁へ入れた。

「恭太は、一人暮らしがしたいとか思わないのか?」

「こんなぬくぬくした場所を離れたいと思う人間がいるかね」

「いや、おれ達はいいんだけど……」

好きにしていいんだぞと言う義雄へ、これが好きにしている形だと返す。

「僕はここにいたくている。義雄達に気なんか使ってないし、使うべきだとも思ってない」

義雄はそうかと苦笑した。

「それに、僕は一人は好きじゃない。義雄達に出逢ってなければ嫌でもそうなってたから」なにより一人って寒いじゃんと僕は続けた。

「恭太は本当に寒いの嫌いだな」

「当たり前だ。寒いのが好きな人など、どうかしてる」

「おれは暑い方が苦手だけどなあ」

「ああ、よーく知ってるよ。義雄のいる夏の部屋は冬の直前のようだからね」

「なんだ、だから夏は素っ気ないのか」

玉杓子を持つ手に力が入った。一度深く呼吸する。

「一緒にいると寒いんだよ」返した声は低かった。

「よし、じゃあこれから冬にはおれが温めてやろう」

「ふざけんな冗談じゃない。もういいから薫子とでもいなよ」

義雄は不思議そうにこちらを見た。

「今日は薫の出るイベントなんかないぞ。ファンクラブの会員だから詳しいんだ」

僕は「もう頼むからどっか行ってくれよ」とぼやきながらアクを取った。

「なにを言う。今日は恭太のイベントに参加するんだ」

「今日の主役僕じゃねえんだよ」

「重ね重ねなにを言う。おれ達にとってお前は常に主役だぞ」

「だったら主役の料理場面を引き立ててくれよ」

「それはだって……」監督が、と呟く義雄へ今すぐそやつを連れてこいと返す。

「二度とメガホンなど握れぬ手にしてやる」