七月が明けてしまえば、薫子の誕生日はすぐに訪れた。

店から戻ると、僕は手を洗ったあとすぐに台所に立った。鍋に水と昆布を入れる。

流し台の下から二つの焼き物を取り出した。赤味噌と白味噌、それぞれ適量を一つの密閉容器に混ぜて味をみる。思わず口角が上がった。理想の食べ始めより少し早いが、上出来だった。

人の気配に振り返ると、義雄が「おお」と声を発した。

「どうした、僕の作る夕食が待ち遠しいか?」

「なんだ、今夜は恭太が作るのか?」

「そうだよ」

「聞いてないけど」

「言ってないけど」

「それより、おれはおれで作るものがあるんだが」

「知らないな、なにするの」

「なにを言う。今日はおれがファンクラブにまで入ってる薫の誕生日だろう」

知ってたのかと本音をこぼすと、義雄は当然だと頷いた。

「じゃあ、義雄はなにするの?」

そうだなあ、と義雄は腕を組んだ。「メイン作りの座を奪われてしまったなら、デザート作りでもするかな」

「そう。じゃあ居間でも自室でも行っておいて」

僕は前を向き直って焼き物の蓋を閉めた。

やれやれ、と義雄は後ろで言う。「随分と冷たいじゃないか、我が息子よ」

ぽつりと、僕は「ありがとう」と無意識に返した。息子という改まった言い回しが耳についた。「褒めちゃいないよ」と苦笑する義雄へ、「そうだよね」と同じように返す。