部屋に戻ると、薫子はふふふと愉快そうに笑った。

「恭太君ときょうだいだなんて恐れ多いですね」

ぐふふと笑ってベッドに腰を下ろす薫子へ「楽しそうでなによりだよ」と返し、「昇天しそうです」と言う彼女へは「死なないで」と返した。

「そういえば、さっきのお茶すんごいおいしかったんですけど、いい茶葉でも使ってるんですか?」薫子は不苦郎君を抱いて言った。

僕は布団を敷く辺りにあぐらをかき、倒した上体の後方に両手をついた。

「義雄が色々拘ってるらしい。おかげで、季節によって家にある茶葉が違うからもう……」僕にはさっぱり、と僕は首を振った。

「義雄さんがお茶がお好きなんですねえ……。てっきり、トシおばあちゃまか茂おじいちゃまかと思いました」

「前はメーカーも知らないまま缶コーヒーしか飲まないような人だったようだけど、雅美に刺激を受けてお茶を愛すようになったらしいよ」

「へええ。雅美さんが義雄さんに刺激を受けて変わった部分はあるんですかね? 雅美さんのそういうところ、想像できないですけど」

「あまりないんじゃないかな。自分と他人の間に濃い境界線があるような人だから。決して他人と接するのが嫌というわけではないけどね。こうのはななんかを継いだくらいだから」

「そうですね。それに、わたしなんかをああも大切にしてくれるくらいですし」

「あの人にとっては、薫子と僕が一番大切なんだよ」

「恭太君はわかりますけど、わたしもですか?」

僕はそうと頷いた。「僕も薫子も、この家では同じような存在なんだ」

「ここにお邪魔している間は、わたしも家族同然ということですか?」幸せ過ぎて泣けてきますよと純粋に笑う薫子へ、僕は返す言葉が見つからなかった。