おそよ九十度に傾けた急須から静かに落ちる雫は、やがてぴたりと止まった。お盆の上の湯呑みを運び、皆の前に置いていった。

自分の場所に座り、両手で温かい湯呑みを包む。

「手、冷えました?」薫子が言った。

大丈夫と僕は返した。「寒がりなだけで冷え性ではないから」

僕は湯呑みのほうじ茶を啜った。ふうと息をついて「早く夏にならないかな」とこぼす。

「夏は嫌ですよ」と薫子が隣で口を尖らせる。「夏は暑いですもん」

「寒いよりいいじゃない」

「夏、何日も外にいたら本当に地獄ですよ」

「そうか……。最近、夏の暑さもおかしいしね」

「でもまあ、冬の寒さもおかしくなってますよね」

日本大丈夫かなと呟くと、日本大丈夫ですかねという薫子の声と重なった。同時に茶を啜ると、薫子は「すっごいおいしい」と声を発した。

「きょうだいみたいだね」と雅美と茂さんが声を重ねる。僕と薫子は互いを見て首を振り、「こんないい子と」、「こんな素敵な人と」と声を揃えた。仲がいいようでなによりだと茂さんは穏やかに笑う。