テレビの時計が九時前を表す頃、廊下から義雄と薫子の声がした。いくつかの会話のあと、「雪が降ってきたので退散してきました」という薫子の苦笑が聞こえた。

僕は再び脚を抱える腕に顔をうずめた。「本当になんのために冬なんかあるんだろう」

薫子は居間へくると、「雪が降ってきましたよ」と明るい声を上げた。直後、不安げに僕の名前を呼んだ。

「体調でも悪いんですか? この頃、かなり冷え込んでましたからね……」

「いや、体調はかなりいいんだけど」気温と共に気分もがた落ちてるんだと言いながら、僕は顔を上げた。

「ああ。恭太君、寒いの苦手でしたっけね」失礼しますと僕の後ろを通り、薫子は隣の座布団に座った。

「じゃあ朝飯にするか」義雄が言った。トシさんは、と辺りを見回して、「まだ作業中かな」と苦笑する。

「小物雑貨、よく五円でやっていられますよね。あんな品々が五円で売っていたら、わたしが買う側だったら買い占めます」

「それで実際結構売れてるし、そりゃあ休日は製作に当てるよね」

で、と義雄は挟んだ。「皆なに食べる?」

「お茶漬け」と僕が答えると、薫子が「わたしもお茶漬けで」と続いた。雅美は、と義雄が言うと、彼女も同じでと返した。

「そうだ茂さん、なにか採れたものはあります?」義雄が言った。

「京菜が結構」好きに使っておくれと茂さんは穏やかに続ける。

「ありがとうございます。茂さんはなににします?」

「皆と同じでいいよ」

いつもありがとうねと言う茂さんへ、義雄はこちらこそですと返した。

茂さんが自身の場所に座って間もなく、廊下から「おはようございます」と義雄の声が聞こえた。