容器の重たい蓋を開け、辺りを見回して自分の後ろへそれを置いた。薫子は容器の中を覗いて「すごい」と感嘆の声を上げる。

「お味噌でしたか」

「正解。今年が終わりに近づいた頃が食べ頃」

「へええ。なんか興奮しますね」

「そういう趣味の人もいるんだね」

そうじゃねえよ、と薫子はぽつりと言った。

「これから、天地返しっていうのをやるんだけど、この味噌を丸めて、こっちの皿に移していってほしいんだ。上からね。そのときに、出した順に戻していくから、わからなくならないように気をつけて」

「ほう。要は混ぜるって感じですかね」

「そうそう。風味がよくなるんだって」比べたわけじゃないからわからないけどと苦笑を続けると、薫子はへえと頷いた。

「ああそうだ、丸めるのはどれくらいの大きさがいいんですかね?」

「丸めやすい大きさでいいよ」

わかりましたと薫子は頷き、手袋を着用して控えめに味噌へ手をつけた。