風呂上がり、僕は眼帯の紐を結びながら居間へ入った。テレビを観ていた茂さんが「最近こういうの多いね」と呟く。義雄が「そうですね」と静かに返した。

「なんて?」僕は座布団へ座りながら言った。

「男子高校生が……」義雄が言った。

テレビの画面右上には、「男子高校生自殺か」との文字があった。男子高校生が駅のホームから線路へ転落して死亡したとのことで、過去に友人とのメール上で自殺を仄めかす発言をしていたことから自殺と見られているという。

「事故でないなら、よほどのことがあったんだろうね」発した声は微かなものだった。

「最近の人は気が弱いのだとか言う人もいるけど、そういう人たちとは取り巻く環境が違うのよね」雅美が言った。小さな音と共に座卓へ戻されたグラスが水滴を流す。

「なにか……できることってないのかな」

「できること?」トシさんが言った。

「僕のような者が、悲しいことを思い立ってしまう人へできること」

「どうだろうねえ。私も時々考えるのだけど、難しいね」トシさんは悲しげに並べ、テレビの画面へ視線を戻した。

なんて無力なのだろうと思った。幸せな環境にいるゆえに、自ら永い眠りへ向かう人々の心情を理解することさえできない。寄り添う、止めることなどもってのほかだ。