部屋にくると、僕はすぐに布団を敷いた。なんかすみません、と薫子は静かに言った。

「なんか変なこと言いましたよね、わたし」

「いや、全然そんなことないよ。なんで?」

僕は布団の上にあぐらをかいた。

「恭太君、言われたくないこと言われたとき、寝ようとするイメージなので……」

ああ、と僕は苦笑した。「確かにそうかもね。でも別に、本当に触れられたくないような部分はないよ」

「そうなんですか」薫子はベッドに腰を下ろした。「じゃあ、一ついいですか?」

「いいよ」

「恭太君が義雄さんや雅美さん達を名前で呼ぶのって理由があるんですか? トシおばあちゃまと茂おじいちゃまに対しては丁寧語ですし」

「そうだね、なかなかこういう人達はいないかもしれないね。理由、気になる?」

「まあ……結構」

「そう」僕は自分の脚へ視線を落とした。「話しても構わないんだけど、面白くもないし、後悔するかもしれないよ」

「……後悔……?」

うん、と僕は小さく頷いた。「別に、理由なんてないから」

薫子はきょとんとした顔でいた。僕は堪らず噴き出した。

「ごめんごめん。なんかくだらないこと思いついちゃってね。別に、義雄達を名前で呼ぶことに大きな理由はないよ。義雄と雅美が互いを名前で呼び合ってるから、それを真似るように僕もそう呼ぶようになった。トシさんと茂さんは、義雄がそう呼んでるのを先に覚えたからそう呼んでるだけ。話し方も義雄の影響」

薫子は困ったような笑みを浮かべた。

「そうなんですか。なにか大きな理由でもあるのかと思いましたよ」

「なにもないよ」僕はただの幸せ者なんだと肩をすくめて、「暗くするよ」と宣言してから照明の紐を引いた。