十八時頃に自動ドアをくぐると、直前に羽織ったコートを凍てついたような空気が激しく揺らした。月や星が彩る漆黒の空では、薄い雲が走っていた。

半端じゃないねと僕は苦笑する。

「今年の寒波は完全に人間を殺しにかかってます」絶対生かしておくつもりないですよねと薫子も苦笑する。「寒さには強いつもりでいたんですが、自称に留まりそうです」

薫子はボアパーカーのフードをかぶって両手に息を吐きかけた。

「車、持ってくるから待ってて」僕が言うと、薫子は「そんな」と声を上げた。いいですよ、と僕を見上げて首を振る。

「一人より二人の方が暖かいですし」手だって、と言って、彼女は僕の左手を握った。繋いでいれば温かいですと陽だまりのような笑顔を見せる。

「そう」と僕は返した。冷えた薫子の手を握り返し、その華奢な愛らしい手をコートのポケットへ連れた。「すっごいあったかいです」と薫子は言う。