「ところで義雄さん。羊羹、種類違うやつ一切れずつ載せたやつとかメニューにしないんすか?」藤原君は言った。

「ああ、どうしようね。藤原君から注文受けて思ったんだけど」

「あれば絶対売れると思うっすよ。同じ味二切れも要らないんだけどって人もいるかもっすし」

「そうかな?」

「やって損はないと思いますよ? だって、フルーツもノーマルも抹茶も、いつも作ってるんでしょ? その盛り方変えるだけっすもん」

「まあなあ……」いいとは思うんだけど、と義雄は言った。

「品書きに追加するのが面倒なんでしょ?」と言った声が雅美のものと重なった。義雄は苦笑する。

「そうなんすか。それなら、わざわざメニューにはしないにしても、羊羹のメニューのそばにお好みの組み合わせできますみたいなこと書いておくとか。どうせじゃ、三十円でお好みの――ってするとか」

「それは悪くないね。ただ、金は取らないな。そのために作るものも買うものもないし」

「無欲っすねえ」藤原君は苦笑し、お茶もらっていいっすかと続けた。はいよと頷いて湯呑みを受け取り、義雄はお茶を注いだそれを藤原君へ返した。

「ここは、食事処でありながらほっこり処でもあるんだ。ほっこりを提供すると言っておきながら無駄に金銭を頂戴するのは矛盾するからね」

「なんか、こうのはなの経営はいい人にしかできないっすね。おれみたいな人には絶対無理っす。一円でも多く稼ごうという考えの元に動きますからね、本当に」

それも正常な思考だと思うよと義雄は言った。「社会的欲求とかって言ったっけ」と続ける義雄へ、僕は空いた藤原君の食器を受け取って「知らない」とかぶりを振った。「とにかく、そういう部分は誰にでもあるものだから」