「五十円とレシートのお返しでございます。ありがとうございます、またご利用下さいませ」

いつもありがとうねと言って女性客は店を出て行った。彼女を見送ると、閉店の近い店内はしんとした。

「じゃあ義雄さん、最後に羊羹全種一切れずつ」藤原君が言った。

「本当はこんなサービスないんだぞ」と笑いながら、義雄は冷蔵庫から五枚の皿を取り出した。それぞれ種類の異なる羊羹が二切れずつ載っている。

義雄は一つの皿にそれらを一切れずつ載せて藤原君の前に出した。

「おお、ありがとうございます。この羊羹は好きな金額取って下さい」

「五百円でいいよ、一切れおまけだ。それより、今日はよく食べるね」

「なんか最近食欲すごいんすよね。ちょっと前全くなかったんで、うまくバランス取ってるんすかね?」

「気分が落ち着いてきてるからじゃないかな」薫子が言った。「隣お邪魔するね」と藤原君の右隣の席に着き、「フルーツ羊羹一切れずつ」と義雄に告げる。

「じゃあ僕、普通のと抹茶の」僕は言いながら薫子の隣の席に着いた。

「気分か……。確かに落ち着いてきてるかな」藤原君はぽつりと言った。なによりだと僕は思った。

「お母様の様子はいかが?」薫子が言った。

「ここ数日会ってないけど、前回会ったときはよかった。明日、父さんが有給取ったらしいから、一緒に会いに行く予定」

そう、と薫子は静かに頷いた。「お母さん、早く退院できるといいね」と雅美が続く。

「ところで、藤原君はもう冬休み?」薫子が言った。

「うん。もう何日か経ったかな」

僕は義雄の差し出す皿を受け取った。「ちゃんと金箔載ってる」と本音がこぼれた。

「植島ももう冬休み?」

「ああいや……その、わたしは……学校は行ってなくて」

「へえ、そうなんだ。植島も、色々大変なんだね」

「え?」

「学校に行かない――いや、行けない理由って、色々あるとは思うけど、どれも大きなものでしょう? そんなことがありながらも、ちゃんと働いてもいるんだもんな」植島は立派だなと藤原君は続けた。何気なく目をやると、薫子は目を潤ませて唇を噛んだ。「泣くなよ、絶対泣くなよ」と藤原君は焦ったように言う。

僕は空いた食器を持って厨房へ入った。