それで坊や、と義雄は短い沈黙を破った。「なに食べて行くんだ? まさか閉店間際に話だけしにきたわけじゃあないよな?」
これが俗に言う脅しってやつかな、と藤原君は品書きを開いた。「はあ?」と声を発する。
「苺羊羹に蜜柑羊羹? うまいの、これ?」
「うまくないものは出さない主義だよ」義雄が言った。
薫子は鼻をかみながら「鼻水ってこんなに出るんですね」と苦笑する。「泣いたときのそれは涙らしいよ」と僕は返した。
「どうする、絶品フルーツ羊羹食べてみるか?」
「絶品つったってこれ……。苺はまあうまいと思うよ。苺大福とかあるし。だけどさ、蜜柑ってこれ……」
「じゃあわかった。坊やの好きな蕎麦やるから、一回食べてみ」義雄はそう言って羊羹の載った皿を二枚取り出した。「特別だぞ」と色の違う羊羹が一切れずつ載った皿を出す。
藤原君は羊羹と義雄を交互に見た。「羊羹食べたあとに蕎麦食べろと?」
違う違う、と義雄は顔の前で手をひらひらと動かす。「切ったやつあげるから。無料だぞ?」
「えっ、まじで? そういう蕎麦くれんの?」一拍置いて、藤原君は「ああ」と苦笑した。「残ったんすか」
「温かいのもやってるんだけどね」と義雄は笑う。「当然、あげる蕎麦はなんの問題もないよ。このあと切るから超絶新鮮。近日中に食べてな」
「こうのはなの蕎麦好きなんでめっちゃ嬉しいんすけど、そこまでしてこの変わり種羊羹食べさせたいんすか?」
「本当にうまいから。まあ薫が考えたんだから当然だがな」
「義雄さんのその植島への信頼なんなんすか」
これがファンだと言う義雄に苦笑し、藤原君は小さく切った苺羊羹を口に入れた。ゆっくりと咀嚼してふふふと笑う。「見た目ちょいきもいけどうまい」
「きもいって言うな」
「だって赤み帯びた羊羹っすよ?」きもくない、と藤原君は僕を見た。「夏には黄色い羊羹も出してるんだよ」と笑い返す。
「なに、バナナとか言うの?」
「正解。バナナとパイン」
絶対まずいと言う藤原君へ、義雄がそれがうまいんだよと感情のこもった声を返す。
これが俗に言う脅しってやつかな、と藤原君は品書きを開いた。「はあ?」と声を発する。
「苺羊羹に蜜柑羊羹? うまいの、これ?」
「うまくないものは出さない主義だよ」義雄が言った。
薫子は鼻をかみながら「鼻水ってこんなに出るんですね」と苦笑する。「泣いたときのそれは涙らしいよ」と僕は返した。
「どうする、絶品フルーツ羊羹食べてみるか?」
「絶品つったってこれ……。苺はまあうまいと思うよ。苺大福とかあるし。だけどさ、蜜柑ってこれ……」
「じゃあわかった。坊やの好きな蕎麦やるから、一回食べてみ」義雄はそう言って羊羹の載った皿を二枚取り出した。「特別だぞ」と色の違う羊羹が一切れずつ載った皿を出す。
藤原君は羊羹と義雄を交互に見た。「羊羹食べたあとに蕎麦食べろと?」
違う違う、と義雄は顔の前で手をひらひらと動かす。「切ったやつあげるから。無料だぞ?」
「えっ、まじで? そういう蕎麦くれんの?」一拍置いて、藤原君は「ああ」と苦笑した。「残ったんすか」
「温かいのもやってるんだけどね」と義雄は笑う。「当然、あげる蕎麦はなんの問題もないよ。このあと切るから超絶新鮮。近日中に食べてな」
「こうのはなの蕎麦好きなんでめっちゃ嬉しいんすけど、そこまでしてこの変わり種羊羹食べさせたいんすか?」
「本当にうまいから。まあ薫が考えたんだから当然だがな」
「義雄さんのその植島への信頼なんなんすか」
これがファンだと言う義雄に苦笑し、藤原君は小さく切った苺羊羹を口に入れた。ゆっくりと咀嚼してふふふと笑う。「見た目ちょいきもいけどうまい」
「きもいって言うな」
「だって赤み帯びた羊羹っすよ?」きもくない、と藤原君は僕を見た。「夏には黄色い羊羹も出してるんだよ」と笑い返す。
「なに、バナナとか言うの?」
「正解。バナナとパイン」
絶対まずいと言う藤原君へ、義雄がそれがうまいんだよと感情のこもった声を返す。