「だって藤原君、いい人だから。いつかもっと、もっともっと幸せになってほしいって思ったら……」薫子は鼻をすすった。咳をするように声を上げて、多量のティッシュに顔をうずめた。

「えっ、本当になんで泣くの。おれ……おれのせい?」えっ、と困惑したような声を上げ、藤原君は義雄と雅美を見た。

「あまり薫を悲しませないでくれるかな」

「ええ……? まじでおれのせいなの?」わかった、と藤原君は品書きを手に取った。「うーわ」と声を上げる。「お品書きまで変わってんじゃねえか」

もうこうのはなの面影ないじゃんと藤原君は呟く。

「いいだろう? その品書き。薫が色々メニュー考えてくれてな。追加は多いわ既存の品書きは古くなってきてるわで、新しく作り変えたんだ」義雄はさらに「いいだろう」と続けた。

「いや、なんか……おれの知ってるこうのはながどんどん抹消されていくんだけど。植島が増えた頃から」

「いいだろう。いつまでも過去に縛られていてはだめだってことだよ」

「そうじゃなくてさ。こうのはなはなんか、伝統みたいなところあるじゃないっすか。だからこうのはなはなんか、そのまま残しておくべきものっていうか……」

そうかと義雄は笑った。「それだけこうのはなを愛してくれる人がいるというのは幸せなことだな」

まあどんどん進化していくけどと義雄が笑うと、藤原君はこうのはならしさは残して下さいねと返した。