「ところで藤原君、今日は少し元気そうだね」僕は言った。「お茶ね」と梅の花が描かれた、湯気の立つ湯呑みを置く。
「まあね」母さんの調子が少し落ち着いたんだ、と藤原君は言った。
「母さん、あれから自殺未遂してね」
どきりとした。場の空気が変わった。
「夜中おれ達が寝たあとに家を出たようで、川に入って行くところを辺りの警備にまわっていた警察官に止められたらしい。それで自殺しようとしたのだと警察官に話したようで、父さんに連絡がきたらしい。おれと姉は父さんが出掛ける支度をする音で目が覚めた。母さんが警察に保護されたと聞いて、おれ達も一緒に行くことにした。その一件を機に、母さんは精神科に入院した。この間その面会に行った」初めて母さんの笑った顔が見られた、と藤原君は言った。だけど、と静かに続ける。
「結局父さんには母さんのこと知られる形になっちゃった。おれが襲われたことも」
「いいじゃん、それで。いやむしろそれでいいんだよ」僕が言った。
「父さんも同じようなこと言ってた」藤原君は微かに口角を上げた。「それどころか、父さんには怒られた。なんで言わなかったんだって。これではお前も母さんも辛いじゃないかって」
確かにそうだね、と薫子が言った。ごめんなさいと言う彼女へ、藤原君はゆっくりと目を向けた。
「わたしが変なこと言ったから。お母様と向き合えだなんて。そんなことをすれば、藤原君の身には多くの危険が及び、お母様も苦しいだなんてことは簡単に想像できたはずなのに」
「別に、植島のせいじゃないよ。周りの人になんて言われようと、最終的に決断するのはおれだったんだから」気にしないでと藤原君は穏やかに笑顔を見せた。
「それに、おれはもういいんだよ。母さんの調子は確かに落ち着いてきてるんだし。あまりに順調だから、もしかしたら悪化する場合もあるのかもしれないけど。その場合、一番苦しいのがおれじゃないことが悲しいけど」
義雄さん、と震えた薫子の声が言うと、義雄は静かにボックスティッシュを出した。「なんで植島が泣くんだよ」と藤原君は苦笑する。
「まあね」母さんの調子が少し落ち着いたんだ、と藤原君は言った。
「母さん、あれから自殺未遂してね」
どきりとした。場の空気が変わった。
「夜中おれ達が寝たあとに家を出たようで、川に入って行くところを辺りの警備にまわっていた警察官に止められたらしい。それで自殺しようとしたのだと警察官に話したようで、父さんに連絡がきたらしい。おれと姉は父さんが出掛ける支度をする音で目が覚めた。母さんが警察に保護されたと聞いて、おれ達も一緒に行くことにした。その一件を機に、母さんは精神科に入院した。この間その面会に行った」初めて母さんの笑った顔が見られた、と藤原君は言った。だけど、と静かに続ける。
「結局父さんには母さんのこと知られる形になっちゃった。おれが襲われたことも」
「いいじゃん、それで。いやむしろそれでいいんだよ」僕が言った。
「父さんも同じようなこと言ってた」藤原君は微かに口角を上げた。「それどころか、父さんには怒られた。なんで言わなかったんだって。これではお前も母さんも辛いじゃないかって」
確かにそうだね、と薫子が言った。ごめんなさいと言う彼女へ、藤原君はゆっくりと目を向けた。
「わたしが変なこと言ったから。お母様と向き合えだなんて。そんなことをすれば、藤原君の身には多くの危険が及び、お母様も苦しいだなんてことは簡単に想像できたはずなのに」
「別に、植島のせいじゃないよ。周りの人になんて言われようと、最終的に決断するのはおれだったんだから」気にしないでと藤原君は穏やかに笑顔を見せた。
「それに、おれはもういいんだよ。母さんの調子は確かに落ち着いてきてるんだし。あまりに順調だから、もしかしたら悪化する場合もあるのかもしれないけど。その場合、一番苦しいのがおれじゃないことが悲しいけど」
義雄さん、と震えた薫子の声が言うと、義雄は静かにボックスティッシュを出した。「なんで植島が泣くんだよ」と藤原君は苦笑する。