「どうしたどうした」僕はそっとしておくべきかと考えながら言った。藤原君は「なんでもない」と震えた声を返す。

「いささか魔法が強すぎたかな」義雄は優しく言った。

帰りたくないです、と藤原君は小さく言った。

「なにかあった?」僕は言った。話して楽になるものならばいくらでも話してくれたらいいと思った。

「もういいや」

「ん?」

「疲れてきた」

「そうか」

「もういい」

「……そうだね」

「幸せになりたい」

うん、と返した。正しい返答がわからなかった。僕はあまりに幸せだった。生まれてこの方、一度も不幸だと思ったことがない。同時にあまりに無力で愚かだった。過去にも幾度か、藤原君がこうして疲れ果てたことがあった。しかし一度も彼のためになる言葉を発せたことはなかった。

「たまに思う。死ねば楽になるのかなって。なにも感じなくていいなら、一瞬の少しの苦痛も……」震えた声のあと、彼の頬を大きな涙が伝った。