長女と長男が十歳になる頃には、八人目の子が二歳になろうとしていた。しげさんが「ねえ」と声を発したのは、そんなある日のことだった。

「皆、食事処に興味はないかな」

「しょくじどころ?」三女が言った。「ご飯屋さんのことよ」と私は返した。

「誰もがおれ達のような生活をしているわけではない。安価で……」いや、としげさんは首を振った。「無料で料理を提供できないかな」

「無料で……それは厳しくないかな」

「それなら、可能な限り安価で」

「悪くはないけれど……。いえ、むしろいいと思うのだけど……」

「だめかな」

「どんなものを提供するの?」

「なんでもいいじゃない。食べた人が幸せになれるものなら」

「そうは言っても……私もそれほど料理が得意なわけではないし……」

「いいじゃん。お母さんのご飯、美味しいよ」長女が言った。「それに、ご飯屋さんやるなんて楽しそうじゃん。わたし、お手伝いしたい」

「おれもやる。恵子にできることならおれにもできるから」

「なによそれ。お兄ちゃんって言ったって、豊もわたしよりは下なんだよ?」

「おれが恵子より下なわけがない。それを証明するためにも――」

「上等よ、かかってきなさい」

お母さん、と長女と長男は訴えるように声を揃えた。私は苦笑した。