「すみません。余計なことをしました」私は言った。

女性は静かにかぶりを振った。「いえ。わたしも、本当は色々なもの作りたいし、食べさせてあげたいと考えてるんです。ですが――」

聞けばその家は金に困っており、生活もぎりぎりな状態なのだという。

少年との関係はその後も変わらなかった。女性は度々「なにかお礼を」などと言ったが、私は少年の笑顔こそが最高の礼である旨を伝えた。本心だった。

「人様に対してできることがあるというのは幸せね」ある日の食事中、わたくしは言った。しげさんは「そうだね」と穏やかに頷いた。

「ところで、お仕事はいかが?」

「特に変わったことはないよ。ただただ子供がかわいいだけ」

「恵子や豊も愛して下さいね」

「当然だよ。我が子が一番であるのを前提に、だよ」

「そう」

当たり前じゃないかとしげさんは笑った。