薫子が店に下りてからは部屋の掃除をした。彼女は、昨日いくつかの店で買ってやった髪飾りの一つを着けて行った。

掃除が済んだあと、僕は何気なく、畳んだ布団の隣にある木箱を開けた。学生の頃に使っていたものを収めている箱だ。一番上に二つ折りにされた紙が置いてあった。原稿用紙だった。

マスを埋める文字は将来の夢を綴っている。本文の始めには両親のような人になりたい旨が書いてあり、続く文中に何度も父や母という文字が出てくる。

僕は小さく苦笑した。過去にこれほど敬愛していた父親に日本中の赤切符を切りたがったのかと思った。直後、義雄や雅美のようにはなれないだろうとも思った。

作文をしまって畳に寝転んだ。携帯電話を確認すると、「8月18日」と表示された。八月ももう終わりの方が近いのかと思った。

目を閉じると、冷房の音に混ざって外に響く蝉の声が聞こえた。