僕は義雄からざる蕎麦と枝豆の載ったお盆を受け取った。「お待たせ致しました」と藤原君の前へ置くと、「枝豆はプレゼントな。夏バテにいいんだよ」と義雄が続いた。藤原君は小さく笑った。

「僕は藤原君のことはなにも知らないけど、いいところはなにかしらあるものだよ」

「せっかくだけど、おれはそうじゃないんだ」

「そう言わないでよ。あるはずのいいところが悲しむよ」

「そんなところないから、そんな心配もいらないよ」

僕は苦笑する代わりに静かに大きく呼吸した。

「さあ、召し上がれ。義雄の料理には魔法が掛かっててね。食べると少しばかりほっとするんだ」

「それはおれもよく知ってる」いただきますと藤原君は手を合わせ、静かに食事を始めた。

「うまかろう?」僕が言うと、藤原君は小さく頷いた。蕎麦を噛み切り、咀嚼しながら鼻をすする。

少ししてもう一度鼻をすすると、今度は箸を持った右手の甲で頬を拭った。