家に着いたのは十八時半頃だった。車を降り、後部座席に置いた荷物を取った。不苦郎君のぬいぐるみが入った袋だ。「自分で持ちますよ」と手を伸ばす薫子へそれを渡した。
「そういえば恭太君」玄関へ向かう間、薫子は隣で言った。「この周りにある木々ってなんの木なんですか?」
「ああ、桜」
「へえ。桜なんですか」
「元は茂さんが、この辺りから畑が見えないようにするために植えたんだ。だけど一辺にだけあるのも変だと思ったらしく、敷地を囲むように植えたの。満開の頃はすごいよ」
「へえ」わたしも三回は見られますねと薫子は楽しそうに辺りを見回した。
荷物を置いて部屋の戸を閉めると、義雄が居間から出てきた。「おかえり」と言う彼へ「ただいま」と返す。
「今日、蕎麦でいいか?」
「いいですねえ、蕎麦」薫子が言った。「打つんですか?」
「おう」
「えっ、本当に?」
「おう。やってみる?」
いやいや、と薫子は慌ただしく手を振った。義雄はそうかと笑い、「部屋ででも待ってな」と続けた。薫子は「はい」と頷いて部屋の戸を開けた。僕が彼女へ続くと、義雄は「ああちょっと」と言った。
「どうした」と振り返ると、彼はにやりと口角を上げた。
「逢い引きか?」
「義雄の言葉にはドン引きだ。そんな仲に見えるか」
「なんだ、違うのか」
「もしそうならおっさんに見つからないよううまくやるよ」
「薫のファンは根強いぞ」
「日本中の赤切符切ってやる」
僕はおやおやと苦笑する義雄を残して自室へ入った。
「そういえば恭太君」玄関へ向かう間、薫子は隣で言った。「この周りにある木々ってなんの木なんですか?」
「ああ、桜」
「へえ。桜なんですか」
「元は茂さんが、この辺りから畑が見えないようにするために植えたんだ。だけど一辺にだけあるのも変だと思ったらしく、敷地を囲むように植えたの。満開の頃はすごいよ」
「へえ」わたしも三回は見られますねと薫子は楽しそうに辺りを見回した。
荷物を置いて部屋の戸を閉めると、義雄が居間から出てきた。「おかえり」と言う彼へ「ただいま」と返す。
「今日、蕎麦でいいか?」
「いいですねえ、蕎麦」薫子が言った。「打つんですか?」
「おう」
「えっ、本当に?」
「おう。やってみる?」
いやいや、と薫子は慌ただしく手を振った。義雄はそうかと笑い、「部屋ででも待ってな」と続けた。薫子は「はい」と頷いて部屋の戸を開けた。僕が彼女へ続くと、義雄は「ああちょっと」と言った。
「どうした」と振り返ると、彼はにやりと口角を上げた。
「逢い引きか?」
「義雄の言葉にはドン引きだ。そんな仲に見えるか」
「なんだ、違うのか」
「もしそうならおっさんに見つからないよううまくやるよ」
「薫のファンは根強いぞ」
「日本中の赤切符切ってやる」
僕はおやおやと苦笑する義雄を残して自室へ入った。



