十七時過ぎ、二度目の休憩にその部屋に入ると、「お疲れ様です」と薫子が笑顔を見せた。僕は「お疲れ」と会釈し、扉を閉めた。

「きてたんだ」言いながら、それもそうかと思った。

「はい。トシおばあちゃまが、落ち着かなかったら休憩室なんかにいてもいいのよと言って下さったんです。あんな素敵な方々の間なので落ち着かないことはないんですがね」ただちょっと恭太君に会いたくて、と薫子は照れたように笑った。

「嬉しいこと言ってくれるけど、できることはないよ」苦笑しながら、僕は足元に下駄を残して畳へ上がった。座卓の前、薫子の隣の辺の前に座る。

「今日も忙しいですか?」薫子は穏やかに言った。

「いつもと変わらないかな。看板、替わったの気づいてくれる人多かったよ。確かに食事処よりもほっこり処という感じだと言ってくれる人もいた」

「本当ですか。なんか、大きな提案でしたがしてよかったです」

「薫子の案なら、廃業に直進するようなものでなければまず採用されるよ」

「恭太君の案は?」

僕は苦笑した。「僕は採用もなにも、思いつかないから」

ああ、と薫子も苦笑した。「いやそんなことないでしょう」と思い出したように言う。