「そういえば、恭太君は料理しないんですか?」

「ああ……。ある程度はできるよ」

「乾麺茹でるとか?」と微かに口角を上げる薫子に「いやいや」と笑い返す。

「もう三パーセントくらいはできる。煮物と焼き魚は自信持ってできる。あと、合わせ味噌と味噌汁はだいぶ美味だよ」

「え、合わせ味噌作るんですか?」

「そう。大豆潰して麹と塩入れて――て。それで味噌混ぜて」

薫子は小さく噴き出した。「もう、和食屋さんのお兄さんは違いますね。お味噌手作りする世界にいるんですもんね」

「やる人はやるんじゃないのかな」

「本当ですか。すごい人もいるものですねえ。お味噌手作りか……。えっ、恭太君お醤油も作ったりするんですか?」

僕は小さく笑ってかぶりを振った。「それは規模大きくない?」

「お味噌も十分大規模だと思うんですが……」

「味噌は簡単だよ。そうだ、今度全力で味噌汁作ってみるよ。自分でもそこそこだと思ってるから、まずいとは言わせないはずなんだ」

「へえ。恭太君がそんな自信満々なのって気になりますね。気が向いたらぜひ作って下さい」

おうと頷き、僕は拳銃のようにした手を薫子へ向けた。

「僕の――」

薫子は「あっ」と声を上げた。「なんかいい匂いしてきましたね」

「ああ、そうだね」言いながら手を下ろし、変なことを言ってしまわなくてよかったかもしれないと思った。