僕は部屋に入り、「今メモ帳持ってる?」と薫子へ問うた。ええと、と呟き、薫子は天井に視線を流した。「制服のポケットですね。あの、サムイ」薫子は「違う」と首を振り、「サムエだ」と言い直した。
「作るに事務の務に衣服の衣でサムエなんて、日本語って深いですよね」と笑い、「持ってきますね」と残して薫子は部屋を出た。
少しして戻ってくると、薫子は「お待たせしました」とメモ帳を差し出した。礼を言って受け取り、頁を切り取った。
「ペンも持ってきました」とボールペンを差し出す薫子へ、「すごい」と笑い返し、それも礼を言って受け取った。
卓上鏡だけが載った座卓に切り取ったメモ帳を置き、頭の片隅に記憶していた数字や記号、英文字をボールペンで並べた。
「僕の連絡先ね」なにかあったら、とメモ帳を揺らし、座卓へ戻した。
「こんなちょっとめんどくさいようなことしないで普通に交換してくれればいいじゃないですか」薫子は苦笑した。
「嫌でしょう、あまり知らない男と連絡先交換するの」
「同じ部屋に過ごさせてもらって今更そんなこと言いませんよ」
まあ、と僕は苦笑した。尤もな言葉だった。
「そうだ」薫子は呟くように言った。「もしもわたしの登録するときには、声と香水の香が入った馨で登録してもらっていいですかね」
「ああ……うん」
理由を問う前に薫子はくすりと笑った。「あまりこの草冠の薫好きじゃないんですよね。自分に合いすぎてるせいでしょうかね」自分の名前以外で見るならなにも思わないんですが、と薫子は苦笑した。
「そう……」そんなに自分を嫌わないでよという声を飲み込んだ。
「作るに事務の務に衣服の衣でサムエなんて、日本語って深いですよね」と笑い、「持ってきますね」と残して薫子は部屋を出た。
少しして戻ってくると、薫子は「お待たせしました」とメモ帳を差し出した。礼を言って受け取り、頁を切り取った。
「ペンも持ってきました」とボールペンを差し出す薫子へ、「すごい」と笑い返し、それも礼を言って受け取った。
卓上鏡だけが載った座卓に切り取ったメモ帳を置き、頭の片隅に記憶していた数字や記号、英文字をボールペンで並べた。
「僕の連絡先ね」なにかあったら、とメモ帳を揺らし、座卓へ戻した。
「こんなちょっとめんどくさいようなことしないで普通に交換してくれればいいじゃないですか」薫子は苦笑した。
「嫌でしょう、あまり知らない男と連絡先交換するの」
「同じ部屋に過ごさせてもらって今更そんなこと言いませんよ」
まあ、と僕は苦笑した。尤もな言葉だった。
「そうだ」薫子は呟くように言った。「もしもわたしの登録するときには、声と香水の香が入った馨で登録してもらっていいですかね」
「ああ……うん」
理由を問う前に薫子はくすりと笑った。「あまりこの草冠の薫好きじゃないんですよね。自分に合いすぎてるせいでしょうかね」自分の名前以外で見るならなにも思わないんですが、と薫子は苦笑した。
「そう……」そんなに自分を嫌わないでよという声を飲み込んだ。