「そうだ。義雄、もう看板できたんですって」雅美は思い出したように言った。

「へえ、早い」

「あの人、ああ見えて器用なのよね。しかもいろんな分野で」

「どう、女性として羨ましい?」

「別に? わたしだって、あれだもん。それなりに色々できるもん。料理も裁縫も、ちょちょいのちょいなんだから」

はいはい、と僕は苦笑した。「羨ましいのはわかった」

だから羨ましくないからと口を尖らせる雅美をはいはいと笑い、僕は自室の方を向いた。

待ってと言って朝食どうするかと問う雅美へ「薫子にも訊くでしょう?」と返し、自室の戸を開けた。

「おかえりなさい」と笑顔を見せる薫子へ、「なんかごめんね、毎日毎日」と返す。

「とんでもないです。こちらこそ、居候の身でありながら気を使わせてしまって……」

「気を使わせてるのはこっちだよ。ところで、朝食はなにがいい?」

「なにがありますかね?」

「和食なら基本的になんでもできるよ」

「じゃあ、おにぎりがいいです。塩鮭おにぎり」

「塩むすびに鮭入ってる感じ?」

「はい」

「へえ、美味しそう。そうだ、昼はなに食べたい?」

「ああそうか。今日皆さんいないんですもんね」

ああそうだと発し、「ちょっと待って」と告げて雅美の方を振り返った。「塩むすびに鮭入れたやつ二個」と告げる。雅美は「薫ちゃん本当にセンスいいよね」と笑い、「了解」と頷いた。