ところで、と僕は言った。「薫子、今日休み?」

「はい、そうです。金曜日にお休み頂きました。雅美さんが水曜日、義雄さんが木曜日、恭太君が月曜日にお休みとのことだったので」土日に続けたのは恭太君の真似ですと薫子は笑った。

「そう」と笑い返し、顔を洗ってくると伝えて立ち上がった。

戸に手を掛けると、「あの」となにかを思い出したような薫子の声がした。「どうした?」と振り返ると、彼女は「やっぱりなんでもないです」とゆっくり顔を背けた。

「頼りないのは重々承知だけど、なんでも言って」

「ありがとうございます」と言う薫子へ首を振り、僕は部屋を出た。

顔を洗い、洗口液で口をゆすいだ。手を拭き、眼帯を右目に当てて顔を上げる。紐を結ぶと、「ここ数年、痒みもないのね」と雅美の声がした。彼女はコンロで火にかけられたやかんの前にいた。

「ああ、慣れって恐ろしいよね」そういえば、と僕は言った。「もう両目で過ごしてた時期と同じだけこの形で過ごしてるんだね」

「ああ……」そうね、と雅美は静かに言った。