目を覚ましてすぐ、小さな笑い声にびくりとした。薫子は幸せそうにタオルケットを抱いて眠っている。今日は悪夢に魘されなければいいなと思った。
薫子はなぜあれほど大人や成長に拘るのだろうと思考が巡る。お母さん、とも解釈できた昨日の薫子の声がよぎった。母親になにか言われたのだろうか――。
なんて無力なのだろうと思った。藤原君にも薫子にも、心情を理解することさえしてあげられない。大人になりたい、成長したい――僕は一度も思ったことがなかった。そんなことを思うほど自分自身のことを考えていなかったのかもしれない。
心地よさげにタオルケットを抱き直す薫子に頬が緩んだ。ふわりと目を開け、「おはようございます」と笑顔を見せる薫子に「おはよう」と返す。驚きの色が濃く出た声だった。
「なんか今日は幸せな夢見てました」
「そう。それはよかった」
「なんか、優しい人に撫でられてる夢でした」
「へえ」
薫子は「恭太君だったんですかね」と笑った。僕は変に唾を飲み込み、咳払いをした。
「僕はそんなに優しくないよ」言ったあと、さらに何度か咳払いした。
「しれっとそういうことしそうなのに」
「いや、まあ……」いやどうだろう、と僕は首を傾げた。
「まあいいです。曖昧なままにして妄想を膨らませるのも楽しいものですから」
薫子はなぜあれほど大人や成長に拘るのだろうと思考が巡る。お母さん、とも解釈できた昨日の薫子の声がよぎった。母親になにか言われたのだろうか――。
なんて無力なのだろうと思った。藤原君にも薫子にも、心情を理解することさえしてあげられない。大人になりたい、成長したい――僕は一度も思ったことがなかった。そんなことを思うほど自分自身のことを考えていなかったのかもしれない。
心地よさげにタオルケットを抱き直す薫子に頬が緩んだ。ふわりと目を開け、「おはようございます」と笑顔を見せる薫子に「おはよう」と返す。驚きの色が濃く出た声だった。
「なんか今日は幸せな夢見てました」
「そう。それはよかった」
「なんか、優しい人に撫でられてる夢でした」
「へえ」
薫子は「恭太君だったんですかね」と笑った。僕は変に唾を飲み込み、咳払いをした。
「僕はそんなに優しくないよ」言ったあと、さらに何度か咳払いした。
「しれっとそういうことしそうなのに」
「いや、まあ……」いやどうだろう、と僕は首を傾げた。
「まあいいです。曖昧なままにして妄想を膨らませるのも楽しいものですから」