店に入ると、僕は薫子にカウンターテーブルの拭き掃除を頼んだ。

僕は座敷に上がり、窓を開けて小壁の辺りを毛ばたきで掃除した。続いて畳を箒で掃き、塵をちりとりに収める。

畳の掃除が済むと、薫子が四枚の布巾を手に上がってきた。

「わたし、あっちからやってきますね」今濡らしてきたやつです、と差し出される布巾を、僕は礼を言って受け取った。

「若いなあ、動きが早い」ぽつりと口に出した。

「恭太はいくつよ」雅美は苦笑した。

「もう二十二だよ」

「あんたもまだまだ若いでしょうが。それで十代の少年少女を若いだなんて言ってたら、嫌味に取られるわよ」

「嫌味じゃない、本心だ」僕は言いながら、箒とちりとりを手に座敷を下りた。

「雅美だって、これくらいの頃思わなかった? いいなあ、十代の人たちは。若いなあ、動けるなあって」

「そんなこと思わないよ。わたしだってそれくらいの頃はちゃんと動けたもの」いや今だって動けますけど、と声を張る雅美を笑う。

「二十二……まだいける?」

「いけるの意味がわからないけど、まだまだこれからよ。むしろそれくらいからが本番じゃない? 人生なんて」

「雅美達は?」

「本番のあとの余韻に浸ってるのよ。で、あと数十年を本番とは違った感じで好き放題過ごしたら、とっ散らかしたもの達を片付けながら、いろんなことがあったなあと本番とその続きを思い出すの。そして残りは穏やかに過ごす」

ふふっと笑う雅美へ、「かっこいいこと言ったとか思ってるでしょ」と笑い返す。

「まあとにかく、二十二歳だなんてまだ成長途中みたいなものよ」

僕は「へえ」と返し、ちりとりの中身をごみ箱へ入れ、ロッカーへ掃除用具をしまった。