少しの沈黙を、薫子は「あの」と小さく破った。「恭太君は、どうしてわたしを拾ってくれたんですか?」

拾ったという感覚はないけどと僕は苦笑した。「理由なんてないよ。ただ、公園の近くを通る度に見かける薫子が気になって声を掛けた。薫子に対してできることがありそうだったから家に呼んだ。それだけのことだよ」

「大人って、どうしたらなれるんでしょう」

さあ、と僕は首を傾げた。「どうだろう。大人の定義なんて曖昧なんだ、そんなものに囚われなくてもいいんじゃないかと僕は思うけど」

「経験、ですかね」

「博識であることや、いかなる場面でも適切な判断を下せるというのが大人なら、そうなるには経験も必要な要素だろうね」かく言う僕はそんな存在からはかけ離れてるけどと苦笑する。

どうしたらいいんでしょう、と薫子は項垂れた。お母さんに大人になれと言われたの?――喉元まで出かかった問いを飲み込む。本人の語りたくない事情を無理に聞き出したい癖はない。

いや、違う――。僕は唾を飲んだ。よかったら、と発した声はいささか頼りないものだった。「薫子のこと教えてよ」