「これが、桃花の新しい彼氏!」
「信じられない」
「しかも、テーブルに並んでいるお料理、全部お手製?」
 大学の友人三人が引っ越し祝いをしたいと言い出したので、リョウに相談してみると、笑顔で来客を承諾してくれた。てっきり、その時間はクロゼットにでも隠れているのかと思いきや、堂々と和洋中各種取り混ぜた手料理で、もてなしてくれた。
 リョウはにこにこと座っている。友人三人にもリョウの姿が見えるようで、どこから眺めても感じのよい好青年。実は死んでいるとは微塵も感じさせない。
「どこで知り合ったの、桃花」
「え、えーと。リョウくんは、このマンションに前から住んでいて」
 先住人だったことは、嘘ではない。
「こんなかっこいい彼氏だったら、一緒に歩いて自慢しまくりだよね。料理も上手とか。いいなー。一日、私に貸してよ」
「わたしだって貸してほしい!」
 三人が口論をはじめたので、私は間に入った。
「あのね、リョウくんは素敵男子なんだけど、マンションから出られなくて……引きこもりなんだよ!」
 地縛霊なので外出は不可能です、なんて説明できないので必死にごまかした。
「うそー。こんな超ハイスペック男子が、なにゆえ引きこもり?」
「ほかの女に取られたくないからって」
「見苦しい」
 非難の嵐だが、頼れるのもリョウだった。
「お友だちのみなさん、桃花ちゃんが話していることはほんとうです。ぼく、外に出られないんです。桃花ちゃんにしか心を開けなくて」
 リョウは私の肩を抱き、身体を引き寄せた。恥ずかしくて顔から火が吹き出そうだったけれど、懸命に我慢した。
「みんな、ごめんね。私、リョウくんの心のケアをしているんだ」
「あきれた」
「まじ信じられない」
「勝手にやって」
 私とリョウがらぶらぶなのを目の当たりにした三人は、お祝いもそこそこに帰って行った。
「ごめんね、リョウくん。引きこもり青年に仕立てちゃって」
「いいんだよ。実際、そのようなものだし」
 いや、あなたは生きていないから、引きこもりとは比較になりません……そう答えかけたけれど、リョウはごちそうを作って友人をもてなしてくれた。感謝しなけれなばらない。
「あの三人、私に新しい彼氏ができたって聞いて、焦っていたんだよ。ほんとうなのかどうか確かめたいって、しつこくて。引っ越し祝いは建前。無理なお願いをして、ごめん。今日はありがとう」
 私の仲にも、下心があった。外出は無理でも、やっぱりリョウのことを自慢したい。優越感にひたりたい。私は浅ましい気持ちをおさえ切れなくて、友人を招いたのだ。
「気にしてないよ。ぼく、桃花ちゃんのこと大好きだから」
「一緒にいて。消えないで」
 どこまでもやさしいリョウに、私は抱きついていた。リョウも私に応えてくれた。