リョウが消えてから、十日ほど。
私は絶望に包まれていた。なにをしても楽しくない。なにを食べても味気ない。あの、笑顔がほしい。声が聞きたい。私はすっかりリョウに魅了されていた。
どうしたら、また出てきてくれるだろう。リョウのことが知りたい、調べたい。私は立ち上がった。
まずはインターネットでこのマンションの名前や住所を入力してみる。自殺というキーワードもつけ加えて見た。
「あった。出てきた」
事件は三年前。当時、この部屋に住んでいた男子学生(十八)が自殺。名前や詳しいことは、書かれていない。未成年だったので、特に隠されている。警察や不動産屋に普通に訊いても、個人情報は教えてくれないだろう。
このマンションが建って間もなく、リョウは入居したようだ。駅近の分譲マンションなので、強気価格でも人気の物件だったらしい。となると、隣り向かいに住んでいる人たちは事件を知っているはず。失礼を承知で、聞き込みに行こうと決めた。
リョウの名前、出身地、通っていた大学名、アルバイト先、交遊関係。
「そんなに一生懸命にならないでいいよ。ぼくは別に、今の状況でも困っていないよ」
「リョウ、くん」
久々にリョウの声が聞こえた。私のを背後から、やさしく包んでくれた。
「どこへ行っていたの?」
「ぼくはきみのそばにいた。桃花ちゃんが気がつかなかっただけ」
「見えなかったよ。何度も呼んだのに」
「もっと求めて。強く」
思わず、私はどきりとして息を飲んだ。リョウの色気に圧倒されていた。い、いや、地縛霊に色気もなにもあるはすないのに。
「桃花ちゃん、ぼくが欲しいんでしょ。もっと言って」
ずるずると後退し、私は壁際まで追い込まれていた。もう逃げられない。
「そばに、いて。ずっと」
かすれる声でそう言うのがやっとだった。
「うん。素直で好き」
リョウは私の頭を撫で、頬にキスをした。全身がこわばってしまっていて、動かない。抵抗できなかった。それを許可と受け取ったのか、リョウは私の顔を覗き込むと、今度はしっかりと唇を重ねてきた。リョウの唇が首筋をなぞり、吸った。その冷たさに、私の全身に悪寒が走る。
手馴れていた。
これだけの美形。経験も、さぞかし豊富……と考えると、怖くなった。
「そこまで、ストーップ!」
意外、だと言わんばかりに、リョウはあっけにとられている。
「同居しているけど、こういうのは早い。お互いのことをよく知ってからね」
「喜んでくれると思ったのに。ぼくのキス以上を辞退した女の子、桃花ちゃんが初めてだな」
リョウは首を傾げた。ノリのいい女子なら、さっさと仲よくなってしまうのだろうが、痛い目を見たばかりの私には進めない。ましてや、相手は地縛霊。
「うれしいよ。でも、今日はちょっと」
言い訳をすると、リョウは違った解釈をしたようで、なるほどねと頷いた。
「じゃ、また今度」
リョウは浮き浮きと台所へ消えた。
なんだか、ぐぐっと疲れを感じた。
私は絶望に包まれていた。なにをしても楽しくない。なにを食べても味気ない。あの、笑顔がほしい。声が聞きたい。私はすっかりリョウに魅了されていた。
どうしたら、また出てきてくれるだろう。リョウのことが知りたい、調べたい。私は立ち上がった。
まずはインターネットでこのマンションの名前や住所を入力してみる。自殺というキーワードもつけ加えて見た。
「あった。出てきた」
事件は三年前。当時、この部屋に住んでいた男子学生(十八)が自殺。名前や詳しいことは、書かれていない。未成年だったので、特に隠されている。警察や不動産屋に普通に訊いても、個人情報は教えてくれないだろう。
このマンションが建って間もなく、リョウは入居したようだ。駅近の分譲マンションなので、強気価格でも人気の物件だったらしい。となると、隣り向かいに住んでいる人たちは事件を知っているはず。失礼を承知で、聞き込みに行こうと決めた。
リョウの名前、出身地、通っていた大学名、アルバイト先、交遊関係。
「そんなに一生懸命にならないでいいよ。ぼくは別に、今の状況でも困っていないよ」
「リョウ、くん」
久々にリョウの声が聞こえた。私のを背後から、やさしく包んでくれた。
「どこへ行っていたの?」
「ぼくはきみのそばにいた。桃花ちゃんが気がつかなかっただけ」
「見えなかったよ。何度も呼んだのに」
「もっと求めて。強く」
思わず、私はどきりとして息を飲んだ。リョウの色気に圧倒されていた。い、いや、地縛霊に色気もなにもあるはすないのに。
「桃花ちゃん、ぼくが欲しいんでしょ。もっと言って」
ずるずると後退し、私は壁際まで追い込まれていた。もう逃げられない。
「そばに、いて。ずっと」
かすれる声でそう言うのがやっとだった。
「うん。素直で好き」
リョウは私の頭を撫で、頬にキスをした。全身がこわばってしまっていて、動かない。抵抗できなかった。それを許可と受け取ったのか、リョウは私の顔を覗き込むと、今度はしっかりと唇を重ねてきた。リョウの唇が首筋をなぞり、吸った。その冷たさに、私の全身に悪寒が走る。
手馴れていた。
これだけの美形。経験も、さぞかし豊富……と考えると、怖くなった。
「そこまで、ストーップ!」
意外、だと言わんばかりに、リョウはあっけにとられている。
「同居しているけど、こういうのは早い。お互いのことをよく知ってからね」
「喜んでくれると思ったのに。ぼくのキス以上を辞退した女の子、桃花ちゃんが初めてだな」
リョウは首を傾げた。ノリのいい女子なら、さっさと仲よくなってしまうのだろうが、痛い目を見たばかりの私には進めない。ましてや、相手は地縛霊。
「うれしいよ。でも、今日はちょっと」
言い訳をすると、リョウは違った解釈をしたようで、なるほどねと頷いた。
「じゃ、また今度」
リョウは浮き浮きと台所へ消えた。
なんだか、ぐぐっと疲れを感じた。