事実、引っ越し後の私はついていた。
 アルバイトの時給がぐんと上がるし、難しいと言われていた授業の評価も今年は甘いし、懸賞には当たる、なくしたと思っていたアクセサリーが偶然出てきたり、いいことづくめ。今まではそれを自分ひとりで喜んでいたわけだが、今は一緒に喜んでくれる人がそばにいる。
「すごいね桃花ちゃん。おめでとう」
「さすが桃花ちゃん。運がいい」
「ほんとうによかったね、桃花ちゃん」
 リョウのことばは善に包まれていて、心地よい。私は他人に褒められたことがほとんどないので、舞い上がってしまった。
「リョウくん、私の彼氏になって」
 私はリョウに抱きついた。媚びているつもりはないけれど、自然と甘えた声になってしまう。
「別に構わないけど、ぼく死んでいるんだよ。桃花ちゃんを満足させられないよ?」
「うん。いいの。リョウくん、好き」
「ありがとう。ぼく、桃花ちゃんのこと、大切にする」
 こんなにいい子なのに、どうしてリョウは地縛霊なのだろうか。生きていれば、女の子が放っておかないだろう。モテモテで選び放題、毎日が輝きにあふれたきらきらの充実生活間違いないのに、自殺だなんて。理由が分からない。
 だから、私はリョウを外に誘った。
 もっと楽しませたい。奉仕されてばかりでは気の毒だ。外の空気に触れれば、思い出すこともあるかもしれない。
 それに、こんなにステキな彼氏を連れて、一度ぐらい街を歩いてみたいと言う下心もあった。超絶美形男子が私に夢中。他人の羨望を浴びたい。自慢したい。
「ねえ、今日は散歩してみよう」
 私のお願いに、リョウは表情を曇らせた。
「ぼく、外に出られないんだ」
「そんなこと、前にも言っていたね。でも、今日は天気もいいし、意外と行けるかもよ。試してみようよ、ね」
「いやだよ。ぼく、部屋がいい。外、嫌い」
「だいじょうぶ。私がいる。ね、近くの公園まで行って、コーヒーでも飲もうよ。遠くには行かない、練習だよ」
「ぼくは、桃花ちゃんと一緒にいられればいい」
 うれしいことを真顔で言ってくれるものだ。
「私も、リョウくんといたい。だから誘っているの」
 私は強引にリョウの身体を引っ張って玄関まで連れて行った。
「靴がない」
「でしょ。諦めて」
 歩きたい。リョウと明るい道をふたりで。
「私がリョウくんを守る。靴、何センチかな。簡単なサンダルでよかったら買ってくる」
 そう言って、私は強引にリョウを外出させようとした。
「気持ちはうれしいよ。でもごめん、できない」
 いかにもつらそうに、私から視線を逸らしたリョウは、跡形なく消えてしまった。
「やだ、リョウくん。冗談だよね。もう言わないよ、外へ行こうだなんて。ごめん、謝る。強引だったよね。いやがるリョウくんに無理を押しつけるなんて、私がバカだった。出てきて。隠れないで」
 天井に向かって訴えたけれど、リョウはあらわれなかった。