部屋には、愛らしいリョウの笑顔がある。
「おかえり、桃花ちゃん。なにか分かった?」
 リョウはソファの上に置かれたぬいぐるみのようになって、私の言いつけ通りおとなしく座っている。地縛霊と知っていても、いやされてしまう。
「あんまり進展はなかった。それどころか、ほじくり返すなって、注意されちゃった。明日は、リョウくんの実家へ行ってみるね」
「懐かしいなあ。千葉でしょ、忘れていた」
「てゆうか、千葉ぐらいなら、リョウくんの大学には通学できたよね。どうしても、ひとり暮らしがしたかったの?」
 リョウは首を横に振った。
「誘導されても答えません。なにしろ、覚えていません」
「いつもおとなしいのに、こんなときだけかわいくない」
 リョウは笑った。私もつられて笑っていた。なくしたくない、ふたりだけの時間なのに。