斯波リョウこと、朝香響。十八歳。千葉県出身。大学進学を機に、ひとり暮らしをはじめた。住みはじめて半年後、この部屋で何種類もの薬を大量に飲み、昏睡した状態で冷え込む十一月の夜にベランダにて凍死。自殺と鑑定された。なぜ死に至ったかまでは、不動産屋の所有するデータには記録されていなかった。
「今日は協力してくれてありがとう」
 相変わらずソファに陣取っているリョウに、私はお礼を述べた。言いつけを守るリョウは真面目だ。この生真面目さが、死を招いたのだろうか。
「成仏したいわけじゃないけど、自分のこと思い出したい気持ちはある。桃花ちゃん、ぼくのことなのに、とても一生懸命で、感動したからさ。できることはする。でも、ぼくは外に出られない。明日は、どうするの?」
「勇気を出して、お隣さんにインタビューする。それと、当時の新聞を調べてみようかな。なにか、載っているかも。その次は、リョウくんの実家や大学を訪ねてみる」
「体調、だいじょうぶ?」
「今日はそんなに悪くない。たまに眩暈がしたぐらい」
「不動産屋の小太り営業からだいぶ頂いたからね、生気を」
 胸が痛む。やさしく笑いかけられると、自分が今していることが正しいのかどうか迷ってしまいそうになる。理屈をこねながら、私はリョウを消そうとしている。自分を守るために。一緒にいられたら、どんなにいいか。すてきなリョウを成仏させるなんて、もったいない。けれど、私は生きている。リョウは死んでいる。これまで、自分は逃げてばかりだった。もう、逃げたくない。
「でも、ちゃんと食べなきゃだめだよ。ぼくが食事を作らなくなった途端に、コンビニ通いなんて」
「今日は時間がなかっただけ」
「無理しないで、最後のひと月をぼくと楽しんで過ごしてもいいんだよ、ねえ桃花ちゃん」
「だめ。だめだよ、リョウくんはソファから下りたら、だめ!」
「そ。じゃあ、桃花ちゃんがソファに上がって来て、いちゃいちゃしたくなるように、ぼく仕向けるね」
「ね、寝る。おやすみなさい」
「うん。また明日ね」
 私はベッドにもぐった。もっと深く考えようと思っていたのに、心をリョウにかき乱されてしまい、考えがまとまらなかった。
「弱いなあ、私」