助けを求めに来た同級生は、テオという獣人だった。
 獣人や竜族は、普通の人間より身体能力が優れている。
 テオの走りは速かったが、イヴは意地を張ってそれに合わせた。
 
「僕らは滝壺を見に行って、そこで巨大な蜂の姿をした怪物に襲われたんだ。見たことは無かったけどすぐにワームだと分かったよ」
「残してきた仲間は大丈夫なの?」
「土竜のクリスが壁を作ってしのいでる」
 
 竜族の中でも素質のある者は、人間の魔術師とは異なる系統の「属性魔法」を使う。クリスという生徒は土属性の魔法で壁を作ったのだろう。
 追ってきたオルタナが鼻で笑った。
 
「一匹や二匹程度のワーム、戦って倒せばいいじゃねえか」
「無茶言うな! お前みたいなバトルジャンキーじゃないんだよ!」
 
 テオがオルタナに言い返した。
 
「ほら、あれが滝壺だ!」
 
 前方の木立に囲まれた石の壁に、上部から清水が流れ落ちている。
 滝の前の空き地に不自然な土の壁が立っており、防戦一方な同級生の姿が見えた。
 壁に攻撃を仕掛けているのは、黄色と黒のまだら模様の表皮をした一匹の蜂だ。大きさは人間の子供と同じくらい。尻に人の腕ほどの長さの尖った毒針が付いている。
 
「……ミカヅキ」
 
 イヴは、魔術で自分の案内使魔《ナビゲーター》を呼び出した。
 シルクハットをかぶった白い兎が空中に現れて、イヴの疑問に答える。
 
『照合完了。敵は低級ワームの殺人蜂《キラービー》です!』
 
 ミカヅキは魔術のネットワークにアクセス、ワームの種類を特定して、イヴに伝えてくれる。魔術による調査や索敵は、竜騎士の仕事の一部だ。
 イヴは調査の結果を周囲に伝えた。
 
「あれは殺人蜂《キラービー》よ」
「何でも良いだろ。倒せば一緒だ!」
 
 オルタナは殺人蜂に恐れることなく向かっていくと、飛び蹴りで地面に落とし、胴体を踏みつける。
 電光石火の早業だ。
 
「ひええっ……よく平気で攻撃を仕掛けられるな。毒針が怖くないのかよ……」
 
 同じ獣人だというのに、テオはオルタナの行動に引いていた。
 
「怖いなんて言ってたら戦えるかよ」
 
 オルタナは涼しい顔で答えている。
 イヴも内心では同意見だ。
 だがテオと、テオの仲間はそうでは無いらしい。
 
「助かった……」
 
 壁を作っていたクリスという生徒は、地面にへたりこんでいる。
 クリスの隣にいる普通科のオリーブ色の制服を着た二人の少女は、恐怖で口もきけない様子だ。
 
「大丈夫?」
 
 イヴは警戒を解いて彼らに近寄った。
 その時、オルタナが蜂の頭を踏みつぶしながら、鋭く叫んだ。
 
「馬鹿女! 索敵しろ!」
「え?」
 
 土壁の魔法は解かれ、クリスたちもイヴも無防備な状態だった。
 ジジジと翅を震わせる音と共に、上空から別の殺人蜂が降りてくる。
 
「……吹き飛べ!」
 
 不意に、イヴの金髪を巻き上げる突風が吹いた。
 芯の強さを感じさせる力強い声。
 襲い掛かってきた蜂が風に流される。
 
「遅えぞ、カケル」
 
 オルタナがニヤリと笑う。
 振り返ると、片腕を上げて魔法を放った姿勢のカケルが立っている。
 見たことの無い真剣な表情の彼の瞳は、星のような金色に燃えていた。青い風の残滓が彼の身体を取り巻いている。
 イヴは束の間、彼に見惚れた。