あー……大兄、茶髪とか嫌いな人だから、上坂のこと見た目で判断したな。拓兄が乗り出してきたってことは、おそらく大兄から来た電話って、莉奈さんが言ったような穏やかなものじゃなかったんだろう。
うちの兄貴ズは、そろいもそろって過保護だ。自分たちだって、ちゃっかりかわいい彼女がいるくせに。
「私の携帯、充電きれちゃってたの」
「そう? それならよかった。なんともない?」
「私は大丈夫だけど……」
私は視線を上坂に戻す。
上坂は、上半身だけ起こしてお腹を押さえている。拓兄の蹴りが、見事に横っ腹に決まったらしい。
「美希は嫌がっていたようだけど?」
座った目で見下ろすその顔は……拓兄、怒ってる?
こっそりと莉奈さんの耳元に話しかける。
「莉奈さん、拓兄……」
「もうね。美希ちゃんに連絡とれないってわかってから、心配でずっとそわそわしてて。公園に入った時にちょうど美希ちゃんの悲鳴が聞こえて、それでキレちゃったみたい。私、こんなに怒った拓巳、初めて見るわ」
「私も……久しぶりだよ」
私たちの方を振り向かないまま、拓兄の静かな声が響く。
「いい加減な気持ちで、俺の妹に手を出すな。今度こんなことしたら、蹴飛ばすだけじゃすまねえぞ」
上坂はなんとか立ち上がると、拓兄に軽く頭を下げた。
「すみません。二度と美希さんの嫌がることはしません。でも……嫌がらないのなら、いいでしょ?」
「なに?」
顔をあげた上坂は、私の方をまっすぐに見て言った。
「美希。言ったろ? 俺、本気でお前のこと好きだから。あきらめないよ、お前のこと」
「お前……!」
「拓……お兄ちゃん!」
ベンチを超えて飛びかかろうとした拓兄ちゃんを、とっさに立ち上がって抱きとめた。驚いたような顔で、拓兄ちゃんが振り返った。
「美希」
「私はいいの。だから、もうやめて。お願い。もう、いいの」
「お前……」
必死にその腕につかまる私を、お兄ちゃんは複雑な顔で見ていた。そして、不機嫌そうな顔で上坂を振り返る。
「たとえ美希がやめろと言っても、お前が美希を不幸にするなら、俺は全力でお前を叩きつぶしてやる」
鋭く言い切った拓兄ちゃんに、上坂は目を丸くした。
「美希、愛されてんなあ」
「ふざけんな」
睨みつける拓兄ちゃんを気にすることなく、上坂は私に向かって笑った。
「でも、俺も気持ちは負けてないから。絶対にお前を、つかまえてやる。よろしく、お兄さん」
「お前に……!」
何か言いかけた拓兄ちゃんは、ふいに言葉を止めるとめちゃくちゃ渋い顔になって頭を抱え込んだ。
「拓兄ちゃん……?」
「いや、気にすんな。おい、お前」
「上坂です」
「お前なんかお前で十分だ。もしお前が本気なら……美希を泣かすようなうかつなこと、絶対にするな」
「わかりました。約束します」
真面目な顔で拓兄ちゃんに言うと、上坂はぱんぱんとズボンの土を払った。
「というわけで、美希。もう一ヶ月延長な」
「いつからそんなルールが導入されたのよ」
「俺はスペックが高いので、どんな状況にも臨機応変に対応できます。それとさ」
「なに?」
「今度は、俺のこと、名前で呼んでよ」
「なんで?」
「お前、つきあってんのに、一度も俺のこと名前で呼んでくれなかったじゃん。仲いいやつで俺のこと苗字で呼ぶなんて、おまえくらいのもんだよ」
私だけ。だったらそれって、名前で呼ぶよりよっぽど。
「またね。上坂」
ふ、と笑うと、上坂はぺこりと一礼をして私たちに背を向けた。その足取りは、意外に軽い。
うちの兄貴ズは、そろいもそろって過保護だ。自分たちだって、ちゃっかりかわいい彼女がいるくせに。
「私の携帯、充電きれちゃってたの」
「そう? それならよかった。なんともない?」
「私は大丈夫だけど……」
私は視線を上坂に戻す。
上坂は、上半身だけ起こしてお腹を押さえている。拓兄の蹴りが、見事に横っ腹に決まったらしい。
「美希は嫌がっていたようだけど?」
座った目で見下ろすその顔は……拓兄、怒ってる?
こっそりと莉奈さんの耳元に話しかける。
「莉奈さん、拓兄……」
「もうね。美希ちゃんに連絡とれないってわかってから、心配でずっとそわそわしてて。公園に入った時にちょうど美希ちゃんの悲鳴が聞こえて、それでキレちゃったみたい。私、こんなに怒った拓巳、初めて見るわ」
「私も……久しぶりだよ」
私たちの方を振り向かないまま、拓兄の静かな声が響く。
「いい加減な気持ちで、俺の妹に手を出すな。今度こんなことしたら、蹴飛ばすだけじゃすまねえぞ」
上坂はなんとか立ち上がると、拓兄に軽く頭を下げた。
「すみません。二度と美希さんの嫌がることはしません。でも……嫌がらないのなら、いいでしょ?」
「なに?」
顔をあげた上坂は、私の方をまっすぐに見て言った。
「美希。言ったろ? 俺、本気でお前のこと好きだから。あきらめないよ、お前のこと」
「お前……!」
「拓……お兄ちゃん!」
ベンチを超えて飛びかかろうとした拓兄ちゃんを、とっさに立ち上がって抱きとめた。驚いたような顔で、拓兄ちゃんが振り返った。
「美希」
「私はいいの。だから、もうやめて。お願い。もう、いいの」
「お前……」
必死にその腕につかまる私を、お兄ちゃんは複雑な顔で見ていた。そして、不機嫌そうな顔で上坂を振り返る。
「たとえ美希がやめろと言っても、お前が美希を不幸にするなら、俺は全力でお前を叩きつぶしてやる」
鋭く言い切った拓兄ちゃんに、上坂は目を丸くした。
「美希、愛されてんなあ」
「ふざけんな」
睨みつける拓兄ちゃんを気にすることなく、上坂は私に向かって笑った。
「でも、俺も気持ちは負けてないから。絶対にお前を、つかまえてやる。よろしく、お兄さん」
「お前に……!」
何か言いかけた拓兄ちゃんは、ふいに言葉を止めるとめちゃくちゃ渋い顔になって頭を抱え込んだ。
「拓兄ちゃん……?」
「いや、気にすんな。おい、お前」
「上坂です」
「お前なんかお前で十分だ。もしお前が本気なら……美希を泣かすようなうかつなこと、絶対にするな」
「わかりました。約束します」
真面目な顔で拓兄ちゃんに言うと、上坂はぱんぱんとズボンの土を払った。
「というわけで、美希。もう一ヶ月延長な」
「いつからそんなルールが導入されたのよ」
「俺はスペックが高いので、どんな状況にも臨機応変に対応できます。それとさ」
「なに?」
「今度は、俺のこと、名前で呼んでよ」
「なんで?」
「お前、つきあってんのに、一度も俺のこと名前で呼んでくれなかったじゃん。仲いいやつで俺のこと苗字で呼ぶなんて、おまえくらいのもんだよ」
私だけ。だったらそれって、名前で呼ぶよりよっぽど。
「またね。上坂」
ふ、と笑うと、上坂はぺこりと一礼をして私たちに背を向けた。その足取りは、意外に軽い。