「……うん」
「かみさ」
「美希」
私の言葉を遮る声に、ゆっくりと視線を戻す。上坂が、じ、と私を見つめていた。
「俺、これで終わりにしたくない」
私は目をそらして……大きく息を吸った。
「……ねえ、上坂」
「ん?」
「なんで、私につきあおうなんて言ったの?」
答えが返ってくるのには、少しだけ間があった。
「なんでって……美希、美人だし。鷹高クールビューティーに興味があったし……それに……それに、俺……」
「それに、賭けてたからでしょ? 私が落ちるかどうか」
さりげなく続けると、上坂が息をのむのがわかった。
「……なんで、それ……」
「青石さんが教えてくれた。学食Aランチ一ヶ月分なんて、私ってずいぶん安く見積もられたものね」
『面白半分に、みんなで賭けたのよ。あんたが落ちるかどうか。あんた、蓮のこと好きになったんでしょ? だから、もうおしまい。いつまでも勘違いして、蓮にまとわりつかないで。あんたみたいなブスと一緒にいるなんて、蓮が可哀そう。もう蓮に近づかないで!』
叫ぶ声は、まるで泣いているように聞こえた。
「確かに、美希に声かけたきっかけはそうだった」
気まずそうにだったけど、案外あっさりと上坂は認めた。
「お高くとまってる真面目ながり勉が、ああいうときってどんな顔すんのかって馬鹿話になってさ。俺なら絶対落ちるから、ってみんなに煽られた。それなら賭けようぜ、って……軽いノリだったんだ。ごめん、あの頃の俺は、お前のこと何も知らなかったから。もっと鼻持ちならない女かと思って……ああ、本当に、ごめんて」
振り向いてぎろりと睨んだ私に、上坂は申し訳なさそうに言った。
「けど、お前、思ってたよりずっと……かわいかった」
「は?」
「話してみると美希って、みんなが言うような高慢ちきな女じゃ、全然なかった。普通に可愛い女の子だったよ。教室で見てた優等生のお前と違うことが気になり始めてどんどん魅かれて……真っ直ぐに自分を見てくれる女だってことに気がついたときには、本気でお前に惚れてた。だから賭けのこと気になっていたけれど、言い出せなかった。お前に、嫌われたくなかったんだ」
その言葉に、つきん、と心が痛んだ。
嫌いになんて。
上坂が、黙ったままの私に自嘲するように笑った。
「これからもお前と一緒にいたいなら、このままその話をしないわけにはいかないと思って……なのに、先に言われちゃったな。信じられないかもしれないけど、俺から言うつもりだったんだ。ごめん」
「謝らなくてもいいわよ。残念だったわね、ランチ一ヶ月分」
「本気でそんなのが目的だったわけじゃない。つまらない毎日の中で、面白いことならなんでも良かったんだ。……そんなことが、面白いと思ってたんだ、あの頃は。でも、今はもう、そんな風に思えない」
薄暗がりの中で、まっすぐな上坂の視線を受け止める。
「俺、美希が好きだよ」
「悪いけど」
私は、ベンチから立ち上がった。
「これ以上、知らないところで馬鹿にされるのはまっぴら。もう私に構わないで」
「やっぱり、俺の言うこと、信じられない?」
「信じられるわけないでしょ? さぞ面白かったでしょうね。いいようにふりまわされて毎日お弁当まで作って……私じゃなくたって、それで喜ぶ女子なんて他にいっぱいいるじゃない」
「俺は、美希がいい」
言いながら、上坂が私の手を、ぎゅ、と握った。
「遊びなら、確かにもっと楽に付き合える女はたくさんいる。けど……美希のことは遊びにしたくない。この一ヶ月。一緒にいて、俺のこと、全然好きにならなかった? それとも、少しは、好きになってくれた?」
「私は……」
つかまれた手が、熱い。真剣に見つめてくる上坂の瞳が……怖い。
私は、その眼を見ていられなくて、視線をそらした。
「かみさ」
「美希」
私の言葉を遮る声に、ゆっくりと視線を戻す。上坂が、じ、と私を見つめていた。
「俺、これで終わりにしたくない」
私は目をそらして……大きく息を吸った。
「……ねえ、上坂」
「ん?」
「なんで、私につきあおうなんて言ったの?」
答えが返ってくるのには、少しだけ間があった。
「なんでって……美希、美人だし。鷹高クールビューティーに興味があったし……それに……それに、俺……」
「それに、賭けてたからでしょ? 私が落ちるかどうか」
さりげなく続けると、上坂が息をのむのがわかった。
「……なんで、それ……」
「青石さんが教えてくれた。学食Aランチ一ヶ月分なんて、私ってずいぶん安く見積もられたものね」
『面白半分に、みんなで賭けたのよ。あんたが落ちるかどうか。あんた、蓮のこと好きになったんでしょ? だから、もうおしまい。いつまでも勘違いして、蓮にまとわりつかないで。あんたみたいなブスと一緒にいるなんて、蓮が可哀そう。もう蓮に近づかないで!』
叫ぶ声は、まるで泣いているように聞こえた。
「確かに、美希に声かけたきっかけはそうだった」
気まずそうにだったけど、案外あっさりと上坂は認めた。
「お高くとまってる真面目ながり勉が、ああいうときってどんな顔すんのかって馬鹿話になってさ。俺なら絶対落ちるから、ってみんなに煽られた。それなら賭けようぜ、って……軽いノリだったんだ。ごめん、あの頃の俺は、お前のこと何も知らなかったから。もっと鼻持ちならない女かと思って……ああ、本当に、ごめんて」
振り向いてぎろりと睨んだ私に、上坂は申し訳なさそうに言った。
「けど、お前、思ってたよりずっと……かわいかった」
「は?」
「話してみると美希って、みんなが言うような高慢ちきな女じゃ、全然なかった。普通に可愛い女の子だったよ。教室で見てた優等生のお前と違うことが気になり始めてどんどん魅かれて……真っ直ぐに自分を見てくれる女だってことに気がついたときには、本気でお前に惚れてた。だから賭けのこと気になっていたけれど、言い出せなかった。お前に、嫌われたくなかったんだ」
その言葉に、つきん、と心が痛んだ。
嫌いになんて。
上坂が、黙ったままの私に自嘲するように笑った。
「これからもお前と一緒にいたいなら、このままその話をしないわけにはいかないと思って……なのに、先に言われちゃったな。信じられないかもしれないけど、俺から言うつもりだったんだ。ごめん」
「謝らなくてもいいわよ。残念だったわね、ランチ一ヶ月分」
「本気でそんなのが目的だったわけじゃない。つまらない毎日の中で、面白いことならなんでも良かったんだ。……そんなことが、面白いと思ってたんだ、あの頃は。でも、今はもう、そんな風に思えない」
薄暗がりの中で、まっすぐな上坂の視線を受け止める。
「俺、美希が好きだよ」
「悪いけど」
私は、ベンチから立ち上がった。
「これ以上、知らないところで馬鹿にされるのはまっぴら。もう私に構わないで」
「やっぱり、俺の言うこと、信じられない?」
「信じられるわけないでしょ? さぞ面白かったでしょうね。いいようにふりまわされて毎日お弁当まで作って……私じゃなくたって、それで喜ぶ女子なんて他にいっぱいいるじゃない」
「俺は、美希がいい」
言いながら、上坂が私の手を、ぎゅ、と握った。
「遊びなら、確かにもっと楽に付き合える女はたくさんいる。けど……美希のことは遊びにしたくない。この一ヶ月。一緒にいて、俺のこと、全然好きにならなかった? それとも、少しは、好きになってくれた?」
「私は……」
つかまれた手が、熱い。真剣に見つめてくる上坂の瞳が……怖い。
私は、その眼を見ていられなくて、視線をそらした。