「たまにはいじめられるのもいいいかな。君みたいな美人なら、それこそ徹底的に、ね」
……図星、ついちゃったのね。いくら私の機嫌が悪かったからって、悪いことしちゃった。
謝ろうとする私を手先で制して、岡崎さんがにっこりと笑う。
「まあ、俺も大人げなかったと思うから、お詫びに、少し昔話をしてあげる。大丈夫、悪い話じゃないよ」
☆
私たちは駅前のオープンカフェでお茶することにした。
友達とお茶するくらいデートとは言わないよ、と岡崎さんにうまく丸め込まれて向かい合って座る。これ以上真面目と言われ続けるのもなんとなく癪に障る、なんてこっちも少し意地になっていたのは否めないけど。
というか、私、いつこの人と友達になったんだろう。
「蓮のとことは家同士の付き合いがあって、子供のころからちょくちょく顔を合わせてた。俺ら性格が似てんのかな、割と気が合って、中学の頃からよく遊ぶようになったんだ」
からからとアイスコーヒーをかき混ぜながら、岡崎さんは話し始めた。
「俺も結構遊んでいる自覚はあるけれど、蓮は俺以上に相手に対して執着のない奴だったよ」
「上坂が?」
「うん。ホント、長続きしない奴なんだ。連れてきた彼女が他の男と遊び始めると、そのまま置いて帰っちゃうなんてしょっちゅう」
「怒った、とかではなくて、ですか?」
「そんな風には感じなかったなあ。ホント、興味がない感じ。それで次から次へと彼女を変えていた。ああ、蓮のそんな話をしたかったんじゃなくて」
急にばつが悪そうな顔になって、岡崎さんが視線をそらした。
「いえ、知ってましたから」
「……同じ学校なら知っててもおかしくないか。だからさ、こないだみたいに自分の彼女を俺たちから隠すのって、実は初めて見た」
「それは、私があなたたちと一緒に遊べるほど器用でも可愛くもないからじゃないですか?」
「美希ちゃんって、自己評価低い?」
「卑下してるわけではないですけど……岡崎さんみたいに自信満々というわけでもないです」
「俺の場合は、そうするように要求されて生きてきたからね」
私は顔をあげて、つかみどころのない笑みを浮かべる岡崎さんを見つめた。
「総合病院の跡取りとして、優秀な成績、人柄を子供のころから常に求められてきた。でも、さすがに思春期にもなれば、親に言われた通りの人生に疑問も浮かぶようになる。だからと言っても、その頃はもう俺の周りは、それを口に出せる環境じゃなかったけどね。おかげで、親の前では素直ないい子、その分、裏では羽目をはずす、そんな生活が俺の当たり前だった」
「女子が食いつきそうな生い立ちですね。口説くときの常套手段ですか」
「厳しいなあ」
アイスオレを飲みながら言った私に、岡崎さんは苦笑した。
「こんな話、めったにしないよ。女子が俺に求めてくるのは、経済力と包容力。ついでに友達に自慢できる容姿。楽しく遊べればいいだけだから、めんどくさい背景なんて必要ないんだ。ま、俺らだってそれを承知で遊んでいるんだから、おあいこだけど」
「さみしいですね」
「……そうだね」
「上坂も、そうなんでしょうか」
自分の価値をそれだけと承知して、それほど興味もない彼女を次々と変えて。
「だろうね。議員の家に生まれて将来を周りに決められてってとこは、一緒。それが、高校に入ったころから、また変わってきて」
「どんな風にです?」
「うーん、今まで以上に軽薄になってきたっていうか……ホント、欲しいものは何もない、みたいな。一応、将来を考えて俺たち、表面上は真面目にやってるわけじゃん? こないだ渋谷で会った時の俺以外の二人、あれ、西第一の奴らだし」
「え?!」
驚いて、思わずコーヒーを吹き出すとこだった。
西第一高校は、うちと並ぶ名門校だ。特に運動関係に力を入れている学校だから学力面ではうちの方が上にくるけど、それでも進学率は九割を超える。
別に誰がどんな格好したっていいんだけど……軽そうに見えるからって、勉強できないわけではないんだ。見かけで判断してはいけないといういい例なのね。一つ賢くなった。
……図星、ついちゃったのね。いくら私の機嫌が悪かったからって、悪いことしちゃった。
謝ろうとする私を手先で制して、岡崎さんがにっこりと笑う。
「まあ、俺も大人げなかったと思うから、お詫びに、少し昔話をしてあげる。大丈夫、悪い話じゃないよ」
☆
私たちは駅前のオープンカフェでお茶することにした。
友達とお茶するくらいデートとは言わないよ、と岡崎さんにうまく丸め込まれて向かい合って座る。これ以上真面目と言われ続けるのもなんとなく癪に障る、なんてこっちも少し意地になっていたのは否めないけど。
というか、私、いつこの人と友達になったんだろう。
「蓮のとことは家同士の付き合いがあって、子供のころからちょくちょく顔を合わせてた。俺ら性格が似てんのかな、割と気が合って、中学の頃からよく遊ぶようになったんだ」
からからとアイスコーヒーをかき混ぜながら、岡崎さんは話し始めた。
「俺も結構遊んでいる自覚はあるけれど、蓮は俺以上に相手に対して執着のない奴だったよ」
「上坂が?」
「うん。ホント、長続きしない奴なんだ。連れてきた彼女が他の男と遊び始めると、そのまま置いて帰っちゃうなんてしょっちゅう」
「怒った、とかではなくて、ですか?」
「そんな風には感じなかったなあ。ホント、興味がない感じ。それで次から次へと彼女を変えていた。ああ、蓮のそんな話をしたかったんじゃなくて」
急にばつが悪そうな顔になって、岡崎さんが視線をそらした。
「いえ、知ってましたから」
「……同じ学校なら知っててもおかしくないか。だからさ、こないだみたいに自分の彼女を俺たちから隠すのって、実は初めて見た」
「それは、私があなたたちと一緒に遊べるほど器用でも可愛くもないからじゃないですか?」
「美希ちゃんって、自己評価低い?」
「卑下してるわけではないですけど……岡崎さんみたいに自信満々というわけでもないです」
「俺の場合は、そうするように要求されて生きてきたからね」
私は顔をあげて、つかみどころのない笑みを浮かべる岡崎さんを見つめた。
「総合病院の跡取りとして、優秀な成績、人柄を子供のころから常に求められてきた。でも、さすがに思春期にもなれば、親に言われた通りの人生に疑問も浮かぶようになる。だからと言っても、その頃はもう俺の周りは、それを口に出せる環境じゃなかったけどね。おかげで、親の前では素直ないい子、その分、裏では羽目をはずす、そんな生活が俺の当たり前だった」
「女子が食いつきそうな生い立ちですね。口説くときの常套手段ですか」
「厳しいなあ」
アイスオレを飲みながら言った私に、岡崎さんは苦笑した。
「こんな話、めったにしないよ。女子が俺に求めてくるのは、経済力と包容力。ついでに友達に自慢できる容姿。楽しく遊べればいいだけだから、めんどくさい背景なんて必要ないんだ。ま、俺らだってそれを承知で遊んでいるんだから、おあいこだけど」
「さみしいですね」
「……そうだね」
「上坂も、そうなんでしょうか」
自分の価値をそれだけと承知して、それほど興味もない彼女を次々と変えて。
「だろうね。議員の家に生まれて将来を周りに決められてってとこは、一緒。それが、高校に入ったころから、また変わってきて」
「どんな風にです?」
「うーん、今まで以上に軽薄になってきたっていうか……ホント、欲しいものは何もない、みたいな。一応、将来を考えて俺たち、表面上は真面目にやってるわけじゃん? こないだ渋谷で会った時の俺以外の二人、あれ、西第一の奴らだし」
「え?!」
驚いて、思わずコーヒーを吹き出すとこだった。
西第一高校は、うちと並ぶ名門校だ。特に運動関係に力を入れている学校だから学力面ではうちの方が上にくるけど、それでも進学率は九割を超える。
別に誰がどんな格好したっていいんだけど……軽そうに見えるからって、勉強できないわけではないんだ。見かけで判断してはいけないといういい例なのね。一つ賢くなった。