「上坂、授業は?」

「自主休講です」

「あっそ。まあ、いいわ。男手あった方が助かるかもしれないし。吐き気は、する?」

「ええと……今のとこないです」

 でも、頭がすごい痛い。鼻もこれ以上低くなったら困るけど、頭もできれば大事にしたかった……


「病院て、どこですか?」

「樺澤に連絡いれてあるわ」

 樺澤かー……いるかな。今日、帰り早いって言ってたから、もう帰っちゃったかな。

 私は、上坂と先生に支えられながら、学校を後にした。


  ☆



「美希!」

 病院につくなり、血相変えたママが駆け寄ってきた。

「原先生から頭打ったって連絡をもらったけど……大丈夫なの?」

「うん、多分。ママ、お仕事は?」

「ちょうどあがったところに電話もらったのよ。こっちに来るって言われたから、待っていたわ」

 ああ。そっか。ママがこの病院の看護師でなくても、保護者のところには連絡が行くよね。


「お母様でいらっしゃいますか。養護の丸山と申します。このたびはお嬢様にお怪我をさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。後ほど、担任の原もまいります」

 深々と、丸山先生が頭を下げた。

「いえ、すぐに対応していただいてありがとうございました。それより、CTの用意をしてありますので、こちらへどうぞ」

 その様子に、丸山先生がわずかに目を見張る。


「あの……?」

「私、ここで看護師をしているんです。ご案内します」

「まあ、そうなんですか。原からは何も聞いておりませんでしたので……では、よろしくお願いいたします」

 そのあと私はすぐにCTをとられ、ママと先生たちが画像診断の結果を聞く間、控室でベッドへと寝かされていた。



「気持ち悪くなったら、すぐ言えよ」

 上坂は、ずっと私についていてくれた。

「ありがと」

「横向いてた方が楽?」

「気持ち悪いわけじゃないの。後ろ頭痛くて、上向けないだけ」

「ああ……でっかいたんこぶできてるもんなあ」

 CT取ってる間は我慢して上向いていたけど、今は横になっている。これでばかになったら、本気でどうしよう。公式の一つとか歴史の年号とか忘れてそう。


「バレーボール踏みつけて転ぶなんて、私そんなにドジなつもりなかったんだけど。このままじゃ、受験が思いやられるわ」

「違う」

 重い空気を笑い飛ばそうとした私に、上坂は顔を引き締めて呟いた。

「違うんだ……」

「何が?」


「美希が転んだボール……意図的にお前を転ばせようと、足元に転がされたものなんだって。小野さんが言ってた」

「……え……?」

「やったのは、恵美だって」

 恵美……玉木恵美。

「無様に転べばいい、くらいの軽い気持ちだったそうだ。こんな大事になると思ってなかったって、本人たちも青ざめていた」

「たち、なんだ」

 は、と上坂が顔を上げた。私は、目を閉じる。


 実際にボールを転がしたのは玉木さんだったとしても、けしかけたのは青石さんかもしれない。どちらにしても、私を狙ったことには変わりない。

 理由なんて、わかってる。

 私が、今、上坂の彼女であるから。


「……ごめん」

「上坂のせいじゃないよ」

「でも……」

 私が目をあけると、見たこともないほど真剣な目をした上坂がいた。その上坂に、私は、ふ、と笑ってみせる。

「らしくないよ、そんな顔。いつもみたいに、笑ってよ」

 手を伸ばしたら、その手を上坂が握った。