あの月が丸くなるまで

「これ、かわいいな。どうやって作るの?」

「人参の真ん中を型抜きで抜いて、同じ型抜きで抜いたチーズをはめたの」

「あー、なるほど。聞いてみる分には簡単だけど、俺にもできるかなあ」

「作ってみたいの?」

 次々におかずを口に運びながら、上坂は笑った。


「今度は、ちゃんと弁当に挑戦してみようと思って」

「甘いわね。素人がいきなりこのレベルにたどりつくなんて、思わない方がいいわよ」

 私だって、散々卵焼き失敗してきたんだから。

「ふふふ、俺の手先の器用さをなめんなよ。俺はやればできる子なんだ」

「せいぜい、失敗するように祈っているわ」

「失敗かよ! そこは成功するように祈ってよ!」

「だって、料理なんて失敗してなんぼでしょ。そうやって少しづつ覚えていくものなのよ」

「でもできれば成功したい……食べるのは美希なんだし」

「私? なんで?」

 一瞬なぜか言葉を詰まらせた後、上坂はにやりと笑った。


「だって、美希って丈夫そうだし。何食べても、腹壊しそうにないじゃん」

「まずかったら一口も食べてやらない」

 べ、と舌を出した時、上坂のスマホが鳴った。けれど、それをちらりと見ただけで、上坂は電話に出なかった。

「鳴ってるよ?」

「うん」

 そのまま、お弁当を食べ続ける。その様子に、私は首をかしげた。

「いいの?」

 言ってるうちに、電話は切れてしまった。上坂はようやくスマホをとると、そのまま電源を落としてしまう。

「ごめん。うるさかった?」

「そんなことないけど……出ても、いいよ?」

 というか、今まで誰から電話がかかってこようが、私なんか気にせず出てたでしょうが。

「いいんだ」

「……はあ」


  ☆


「普通、デート中にかかってきた電話に出ないって言ったら、浮気相手からの電話って相場は決まってるんだけど」

 のんびりと冴子が、頭上をとんでいくボールを見ながら言った。


 五時間目の体育は、バレーボール。うらうらとした陽気に誘われて眠いのか、みんなまったりとボールを追っている。


「そんなの、今さらだよねえ。あいつ、女遊び激しいこと隠す気もなかったみたいだし、実際呼び出されてそのまま遊びに行っちゃったこともあったし」

 じゃなければ、よほど嫌な相手とか。あ、もしかして、誰かおうちの関係の人かな。こないだ会った秘書さんとは、あまりいい雰囲気じゃなさそうだった。

「それかさ」

 頭の上に来たボールを、冴子は軽く当てて相手コートに戻した。勝負を決めようというよりは、のんびりラリーを続けようというスタンスの試合だ。あっちのコートでも、ぽーんぽーんと軽やかにボールが上がっている。


「美希と一緒の時間を邪魔されたくなかったんじゃない?」

「へ?」

「あいつ、思ったより美希の事本気なのかも」

 独り言のようにつぶやく冴子に、ぶんぶんと首を振った。

「それこそ、ないない」

「そうかなあ……まあ確かに美希って、上坂にしてみれば今までにないタイプだよね。一体美希の何が気に入ったんだろう」

「それはこっちが聞きたいよ」

 私が眉をしかめると、ホイッスルの音がした。授業終了までまだあるけど、どうやらやる気のないのは先生も同じようだった。

 と思ったら、次の授業の邪魔になるので、バレーで使ったネットをしまう時間が必要だったらしい。私たちが片付けるのか、これ。