☆
なんだろう……
昼休みで、人がまばらになった模試の会場。自分の席で持参したお弁当を食べながら、私は窓際の方からの視線が気になっていた。
最初に気づいたのは、午前中の休憩の時だった。なにげなく視線をあげたら、さ、と目線を逸らした男子生徒がいた。気のせいだと思っていたけど、あれから何度か、ちらちらとした視線を感じる。
窓際の席で模試を受けている、すらりとした姿勢のいい男子。
なんとなく見覚えがあるような気がするから、多分、同じ予備校の人だろうとは思う。
気にはなるけど、別に向こうからも声かけてこないし、とりあえずほっとこう。
何事もないまま、昼食休憩が終わって、午後の模試が始まった。
模試が全部終わる頃には、もう七時が近かった。窓の外は、夕焼けが終わろうとしている。
疲れた……けど、手ごたえはあった。結構いい点、いくんじゃないかな。うん、こんな感じでいけば、志望校は大丈夫かも。
気分よく帰ろうとすると、さっきの男子が何人かの女子に囲まれているのが見えた。ああ、カッコいい人だから、学校の人気者ってとこかしら。と、また私と目が合ったその男子は、女子たちから離れて私の方へと歩いて来る。
え?
「ねえ、君」
「はい」
まさか、こんなとこでナンパもないだろう。なんだろう?
「君、昨日渋谷で、蓮と一緒にいただろ?」
「は?」
私は、改めてまじまじとその男子の顔を見つめた。……昨日? 確かに昨日は、上坂と一緒に美容室いって映画見て買い物とかしてたけど、どこかで見られたのかな。
でも、なんでこんな風に声かけられるんだろう。
私が戸惑っているのがわかったんだろう。その男子は笑いながら付け加えた。
「これなら、わかる?」
言いながらその男子は、自分の前髪を片手で全部あげてみせた。
「あっ!」
美容室を出て、上坂ともめているときに会った男子三人組のうちの一人だ!
「やっぱり。っていうかさ、俺、よくここで一緒に講習受けてるんだけど、憶えてない?」
「ええと、なんとなく……」
「さすがに昨日はイメージが全然違うからわからなかったけど、今日君を見て、あれ、と思ったんだ。ずいぶん、変わるものだね」
「それはこちらのセリフです」
人のこと言えない。この人だって、昨日は茶髪のオールバックだった。けど、今目の前にいる彼は、有名予備校に通う賢そうな爽やかイケメン。清潔そうなサラサラヘアは綺麗な黒髪だった。どっちの色が、本当の髪の色なんだろう。
「蓮と一緒にいたってことは、君、もしかして鷹高?」
「はい。……あの」
「あ、失礼」
畳み掛けるように話しかけられて答えを躊躇する私に、彼は爽やかに笑った。
「俺は、岡崎圭介。鈴ヶ丘だよ」
「梶原美希です。鈴ヶ丘なんですか」
私は、わずかに目を見開いた。
鈴ヶ丘といえば、ここらへんじゃ、一番の進学校だ。うちも一応進学校ではあるけれど、文武両道をモットーに遠足だの文化祭だの、勉強とは関係ないとこまで一生懸命楽しむ校風がある。
対して鈴ヶ丘は、今年は何人東大に入った六大学に入ったを自慢するばりばりのエリート校で、とにかく勉強第一の、よく言えば優秀な、悪く言えばお高くとまった学校だ。
あんな真面目な学校でも、チャラい男はいるもんだなあ。
「駅まで、一緒していい?」
岡崎さんは、さっきまで話していた女子たちに手を振りながら私をドアへと促す。
「……いいんですか?」
「何が?」
部屋を出る時振り返ったら、女子たちの鋭い視線と目があってしまった。
なんか最近、こういう場面によく遭うわ。大変不本意。
なんだろう……
昼休みで、人がまばらになった模試の会場。自分の席で持参したお弁当を食べながら、私は窓際の方からの視線が気になっていた。
最初に気づいたのは、午前中の休憩の時だった。なにげなく視線をあげたら、さ、と目線を逸らした男子生徒がいた。気のせいだと思っていたけど、あれから何度か、ちらちらとした視線を感じる。
窓際の席で模試を受けている、すらりとした姿勢のいい男子。
なんとなく見覚えがあるような気がするから、多分、同じ予備校の人だろうとは思う。
気にはなるけど、別に向こうからも声かけてこないし、とりあえずほっとこう。
何事もないまま、昼食休憩が終わって、午後の模試が始まった。
模試が全部終わる頃には、もう七時が近かった。窓の外は、夕焼けが終わろうとしている。
疲れた……けど、手ごたえはあった。結構いい点、いくんじゃないかな。うん、こんな感じでいけば、志望校は大丈夫かも。
気分よく帰ろうとすると、さっきの男子が何人かの女子に囲まれているのが見えた。ああ、カッコいい人だから、学校の人気者ってとこかしら。と、また私と目が合ったその男子は、女子たちから離れて私の方へと歩いて来る。
え?
「ねえ、君」
「はい」
まさか、こんなとこでナンパもないだろう。なんだろう?
「君、昨日渋谷で、蓮と一緒にいただろ?」
「は?」
私は、改めてまじまじとその男子の顔を見つめた。……昨日? 確かに昨日は、上坂と一緒に美容室いって映画見て買い物とかしてたけど、どこかで見られたのかな。
でも、なんでこんな風に声かけられるんだろう。
私が戸惑っているのがわかったんだろう。その男子は笑いながら付け加えた。
「これなら、わかる?」
言いながらその男子は、自分の前髪を片手で全部あげてみせた。
「あっ!」
美容室を出て、上坂ともめているときに会った男子三人組のうちの一人だ!
「やっぱり。っていうかさ、俺、よくここで一緒に講習受けてるんだけど、憶えてない?」
「ええと、なんとなく……」
「さすがに昨日はイメージが全然違うからわからなかったけど、今日君を見て、あれ、と思ったんだ。ずいぶん、変わるものだね」
「それはこちらのセリフです」
人のこと言えない。この人だって、昨日は茶髪のオールバックだった。けど、今目の前にいる彼は、有名予備校に通う賢そうな爽やかイケメン。清潔そうなサラサラヘアは綺麗な黒髪だった。どっちの色が、本当の髪の色なんだろう。
「蓮と一緒にいたってことは、君、もしかして鷹高?」
「はい。……あの」
「あ、失礼」
畳み掛けるように話しかけられて答えを躊躇する私に、彼は爽やかに笑った。
「俺は、岡崎圭介。鈴ヶ丘だよ」
「梶原美希です。鈴ヶ丘なんですか」
私は、わずかに目を見開いた。
鈴ヶ丘といえば、ここらへんじゃ、一番の進学校だ。うちも一応進学校ではあるけれど、文武両道をモットーに遠足だの文化祭だの、勉強とは関係ないとこまで一生懸命楽しむ校風がある。
対して鈴ヶ丘は、今年は何人東大に入った六大学に入ったを自慢するばりばりのエリート校で、とにかく勉強第一の、よく言えば優秀な、悪く言えばお高くとまった学校だ。
あんな真面目な学校でも、チャラい男はいるもんだなあ。
「駅まで、一緒していい?」
岡崎さんは、さっきまで話していた女子たちに手を振りながら私をドアへと促す。
「……いいんですか?」
「何が?」
部屋を出る時振り返ったら、女子たちの鋭い視線と目があってしまった。
なんか最近、こういう場面によく遭うわ。大変不本意。