中央の、短い髪をつんつんと毛羽立てた男子が声をかけてくる。……銀髪? 

「俺らこれから『ダブル』行くんだけど、お前もいかね?」

「わり、俺今デート中」

「新しい彼女?」

 長めの髪に赤いメッシュをいれた男子にじろじろと見られて、思わず上坂の後ろに隠れる。男子たちは、おー、と口をそろえて声を上げた。

「これはまた新鮮な反応だな。よく見れば、めっちゃかわいーじゃん。清純系? 彼女ちゃんも一緒に遊ぼうよ」

「昼飯まだだったら、彼女も一緒にどう?」

「ちょっとー、せっかくのデート、邪魔しないでくれる?」

 軽く笑ってはいたけど、上坂は彼らからかばように私の前に立ってくれた。上坂の背中が、今ほど頼もしく見えたことはない。


「なんだよ、俺たちは女連れでも構わねえぜ。むしろ大歓迎。人数足りない分はどこかで声かけて……」

「この子はだめ」

「へえ、珍しいね。蓮がダメ出しするの、初めて聞いた」

 茶髪のオールバックのお兄さんが、驚いたように目を丸くした。

「確かに、レベルたけーよな」

「スタイルいいよね。足首、細ー」

 にやにやしながら、その人たちは上坂の後ろにいる私をのぞきこむ。視線が、体中にからみついてくるようで気持ち悪い。



 上坂が、追い払うように手を振った。

「『ダブル』行くんだろ? さっさと行けよ」

「へいへい。飽きたら、いつもみたいにこっちに回してくれよ」

「みんなでフラれた彼女を慰めてあげるからさあ」

「ばーか」

「じゃ、またな、蓮。気が変わったら来いよ。もちろん、彼女も歓迎するよ?」

「待ってるぜ」

 げらげらと笑いながら、その人たちは離れて行った。詰めていた息を、そ、と吐く。

 そっか。今日は、置いていかれないんだ。


「ああ、もうこんな時間か。俺たちも何か食べに行こうぜ」

 スマホで時間を確かめると、けろりと変わらない様子で上坂が言った。そんな態度が、やけにむかつく。

「帰るってば」

 ムキになって言ったら、上坂がにやりと意地悪な笑顔を作った。

「でも、今美希が一人でこの街歩いたら、あいつらみたいなのがわらわらと寄ってくるよ?」

「なんで?」

「だって、今日の美希、めちゃくちゃかわいいもん」

「っな、ことっ……!」

「試しに、一人で歩いてみる?」

 そう言われて、さっきの男子たちのまとわりつくような視線を思い出した。体中を品定めするような視線は、今思い出しても足がすくむ。



 大丈夫、っていつもみたいに強がるのは簡単。でも本心は……本当は、こんなとこで一人にされたくない。普段ははかないスカートなんかはいているのも、心細い気持ちに拍車をかけているのかも。

 それでも、置いていかないでなんて、上坂相手に口が裂けても言えるわけない。

 結局私は何も言えずに、ただ無言で、きゅ、と上坂の袖を握っただけだった。

 上坂は一瞬だけ目を丸くして、それから穏やかな笑みを浮かべる。



 あ。それ。

 最近よく見るようになった、学校ではしない優しい笑顔。

 なんだかそれは、少しだけヤバイ気がする。

 私は、上目遣いでその顔を睨んだ。余裕な態度が、ホントむかつく。


「美希の食べたいもの、何?」

「……………………ハンバーグ」

「おっけ。煮込みハンバークのうまい店、知ってんだ。行こ。それから、予定通りに映画、な。その後少し、買い物つき合ってよ」

 勝手に予定を並べながら私の手を取ると、上坂は人波をぬって歩き出した。

 そうしてなし崩し的に、今日の私たちのデートは続行となってしまった。