☆
テンションの高いケンジさんに見送られて、私たちは美容室を後にした。
さっき鏡で見た自分の姿で外を歩いていると思うと、なんとなく気分が弾む。うん、いつもより背筋が伸びる。
いわゆる、ナチュラル系って言うのかな? それほど濃い化粧をしているわけでもない。髪型はかなり変わっているけれど、染めているって程の色もついていないし、パーマをかけたって程のウェーブでもない。なのに、少し少しが積み重なって、いつもの私とは全然違う。自分が可愛くなることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
そうか。女の子はみんな、こんな気分になりたくておしゃれをするものなのね。
「気分は、どう?」
足取りの軽い私に、上坂は満足そうに微笑んだ。
「悪くない」
「ああ見えてもケンジさん、超売れっ子のメイクアップアーティストなんだ。ケンジさんにメイクしてもらえるなんて、レアなんだぜ?」
妙に誇らしげに、上坂が言った。
「そうなんだ。でもこれ、あんたの手柄じゃないで……あ、私、お金……!」
ああいうとこって、メイクだけでもお金、かかるよね。
「今日は、サービスだって」
「でも」
「前々から、彼女出来たら紹介しろって言われてたんだ。ケンジさんも可愛い女子高生いじれて楽しんでたから、それで帳消し」
上機嫌な上坂は、美容室の中からずっと私と手を繋いだままだった。
「ケンジさん、仲よさそうだったね」
「うん、ケンジさんにはいろいろとお世話になってる」
「ふーん。だから、いつも彼女連れてくんだ」
なるべく感情を込めないように言ったら、上坂が私をのぞきこんできた。
「気になる?」
「全然」
「うわ、そこは気にしようよ。むしろ聞いてよ」
「私には関係のない話だもん」
「あるでしょ。美希は俺の彼女なんだし」
「期間限定だけどね」
「それでも、今は俺のものだよ」
「上坂は?」
「俺が、何?」
「上坂は、私のものなの?」
一瞬目を見開いた上坂が、にやり、と上坂が笑う。
「俺は、俺のものだよ」
「……それ、一番最低な答え」
私が顔をしかめた時、軽いメロディーが流れた。
「あ、ちょっとごめん」
手を離した上坂がポケットからスマホを取り出す。
ああ、またか。
せっかく可愛くしてもらって浮かれてた気持ちが、しゅるしゅると沈んでいく。
「真理ちゃん? ごめーん、今デート中なんだ。……うん……そう。えー? 俺だって会いたいよー。……うん、わかってるって」
流れる人波を見ながらなるべく意識しないようにしているのに、私の耳はがっつりとその会話を追ってしまう。いつまでも途切れないそれは、私といるときよりよほど楽しそうだ。
というか、仮にも『彼女』といるときの会話じゃないよね、それ。
……なんだかイライラしてきた。
「うん。いいよー。じゃ、またねー」
ようやく上坂が通話を切ると、私は上坂に向き直る。
「私、帰る」
「え?」
驚いたような上坂の顔を、多分私は無表情のまま見ていた。
「なに、どうしたの?」
「どっか遊び行くんでしょ? いいよ、行けば」
そうして背を向けた私の腕を、上坂が掴んだ。
「行かないって。今日は、美希とデートだし」
「今日は、ね」
顔だけ振り返って、眉をひそめたままの上坂を睨みつけていると。
「「「蓮―!」」」
賑やかな声が聞こえて、とっさに二人で顔を向ける。見れば、通りの向こうから、三人の男子が手を振っていた。
「よう。なんだよおまえら」
手を振り返した上坂を見て、わらわらとその人たちが近づいてきた。みんな背が高い。上坂と同じ軽そうな雰囲気で、世間的にはイケメン、って言われる顔をしていた。
テンションの高いケンジさんに見送られて、私たちは美容室を後にした。
さっき鏡で見た自分の姿で外を歩いていると思うと、なんとなく気分が弾む。うん、いつもより背筋が伸びる。
いわゆる、ナチュラル系って言うのかな? それほど濃い化粧をしているわけでもない。髪型はかなり変わっているけれど、染めているって程の色もついていないし、パーマをかけたって程のウェーブでもない。なのに、少し少しが積み重なって、いつもの私とは全然違う。自分が可愛くなることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
そうか。女の子はみんな、こんな気分になりたくておしゃれをするものなのね。
「気分は、どう?」
足取りの軽い私に、上坂は満足そうに微笑んだ。
「悪くない」
「ああ見えてもケンジさん、超売れっ子のメイクアップアーティストなんだ。ケンジさんにメイクしてもらえるなんて、レアなんだぜ?」
妙に誇らしげに、上坂が言った。
「そうなんだ。でもこれ、あんたの手柄じゃないで……あ、私、お金……!」
ああいうとこって、メイクだけでもお金、かかるよね。
「今日は、サービスだって」
「でも」
「前々から、彼女出来たら紹介しろって言われてたんだ。ケンジさんも可愛い女子高生いじれて楽しんでたから、それで帳消し」
上機嫌な上坂は、美容室の中からずっと私と手を繋いだままだった。
「ケンジさん、仲よさそうだったね」
「うん、ケンジさんにはいろいろとお世話になってる」
「ふーん。だから、いつも彼女連れてくんだ」
なるべく感情を込めないように言ったら、上坂が私をのぞきこんできた。
「気になる?」
「全然」
「うわ、そこは気にしようよ。むしろ聞いてよ」
「私には関係のない話だもん」
「あるでしょ。美希は俺の彼女なんだし」
「期間限定だけどね」
「それでも、今は俺のものだよ」
「上坂は?」
「俺が、何?」
「上坂は、私のものなの?」
一瞬目を見開いた上坂が、にやり、と上坂が笑う。
「俺は、俺のものだよ」
「……それ、一番最低な答え」
私が顔をしかめた時、軽いメロディーが流れた。
「あ、ちょっとごめん」
手を離した上坂がポケットからスマホを取り出す。
ああ、またか。
せっかく可愛くしてもらって浮かれてた気持ちが、しゅるしゅると沈んでいく。
「真理ちゃん? ごめーん、今デート中なんだ。……うん……そう。えー? 俺だって会いたいよー。……うん、わかってるって」
流れる人波を見ながらなるべく意識しないようにしているのに、私の耳はがっつりとその会話を追ってしまう。いつまでも途切れないそれは、私といるときよりよほど楽しそうだ。
というか、仮にも『彼女』といるときの会話じゃないよね、それ。
……なんだかイライラしてきた。
「うん。いいよー。じゃ、またねー」
ようやく上坂が通話を切ると、私は上坂に向き直る。
「私、帰る」
「え?」
驚いたような上坂の顔を、多分私は無表情のまま見ていた。
「なに、どうしたの?」
「どっか遊び行くんでしょ? いいよ、行けば」
そうして背を向けた私の腕を、上坂が掴んだ。
「行かないって。今日は、美希とデートだし」
「今日は、ね」
顔だけ振り返って、眉をひそめたままの上坂を睨みつけていると。
「「「蓮―!」」」
賑やかな声が聞こえて、とっさに二人で顔を向ける。見れば、通りの向こうから、三人の男子が手を振っていた。
「よう。なんだよおまえら」
手を振り返した上坂を見て、わらわらとその人たちが近づいてきた。みんな背が高い。上坂と同じ軽そうな雰囲気で、世間的にはイケメン、って言われる顔をしていた。