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 テンションの高いケンジさんに見送られて、私たちは美容室を後にした。

 さっき鏡で見た自分の姿で外を歩いていると思うと、なんとなく気分が弾む。うん、いつもより背筋が伸びる。

 いわゆる、ナチュラル系って言うのかな? それほど濃い化粧をしているわけでもない。髪型はかなり変わっているけれど、染めているって程の色もついていないし、パーマをかけたって程のウェーブでもない。なのに、少し少しが積み重なって、いつもの私とは全然違う。自分が可愛くなることがこんなに嬉しいなんて知らなかった。

 そうか。女の子はみんな、こんな気分になりたくておしゃれをするものなのね。




「気分は、どう?」

 足取りの軽い私に、上坂は満足そうに微笑んだ。

「悪くない」

「ああ見えてもケンジさん、超売れっ子のメイクアップアーティストなんだ。ケンジさんにメイクしてもらえるなんて、レアなんだぜ?」

 妙に誇らしげに、上坂が言った。

「そうなんだ。でもこれ、あんたの手柄じゃないで……あ、私、お金……!」

 ああいうとこって、メイクだけでもお金、かかるよね。

「今日は、サービスだって」

「でも」

「前々から、彼女出来たら紹介しろって言われてたんだ。ケンジさんも可愛い女子高生いじれて楽しんでたから、それで帳消し」

 上機嫌な上坂は、美容室の中からずっと私と手を繋いだままだった。




「ケンジさん、仲よさそうだったね」

「うん、ケンジさんにはいろいろとお世話になってる」

「ふーん。だから、いつも彼女連れてくんだ」

 なるべく感情を込めないように言ったら、上坂が私をのぞきこんできた。




「気になる?」

「全然」

「うわ、そこは気にしようよ。むしろ聞いてよ」

「私には関係のない話だもん」

「あるでしょ。美希は俺の彼女なんだし」

「期間限定だけどね」

「それでも、今は俺のものだよ」

「上坂は?」

「俺が、何?」

「上坂は、私のものなの?」

 一瞬目を見開いた上坂が、にやり、と上坂が笑う。




「俺は、俺のものだよ」

「……それ、一番最低な答え」

 私が顔をしかめた時、軽いメロディーが流れた。

「あ、ちょっとごめん」

 手を離した上坂がポケットからスマホを取り出す。

 ああ、またか。

 せっかく可愛くしてもらって浮かれてた気持ちが、しゅるしゅると沈んでいく。




「真理ちゃん? ごめーん、今デート中なんだ。……うん……そう。えー? 俺だって会いたいよー。……うん、わかってるって」

 流れる人波を見ながらなるべく意識しないようにしているのに、私の耳はがっつりとその会話を追ってしまう。いつまでも途切れないそれは、私といるときよりよほど楽しそうだ。

 というか、仮にも『彼女』といるときの会話じゃないよね、それ。

 ……なんだかイライラしてきた。




「うん。いいよー。じゃ、またねー」

 ようやく上坂が通話を切ると、私は上坂に向き直る。

「私、帰る」

「え?」

 驚いたような上坂の顔を、多分私は無表情のまま見ていた。

「なに、どうしたの?」

「どっか遊び行くんでしょ? いいよ、行けば」

 そうして背を向けた私の腕を、上坂が掴んだ。




「行かないって。今日は、美希とデートだし」

「今日は、ね」

 顔だけ振り返って、眉をひそめたままの上坂を睨みつけていると。

「「「蓮―!」」」

 賑やかな声が聞こえて、とっさに二人で顔を向ける。見れば、通りの向こうから、三人の男子が手を振っていた。




「よう。なんだよおまえら」

 手を振り返した上坂を見て、わらわらとその人たちが近づいてきた。みんな背が高い。上坂と同じ軽そうな雰囲気で、世間的にはイケメン、って言われる顔をしていた。