自分が必要としないからって、高校生のメイクを軽蔑するようなことを口にした。それは、肌荒れに悩んだことのない私の傲慢さの現れだ。
小さい声で謝ると、ケンジさんは一瞬だけ動きを止めた後、けらけらと笑いだした。
「やだー、謝らなくてもいいよの。確かに、制服にケバいメイクは似合わないもの。アタシだってそういうコには、頭からクレンジングオイルぶっかけてやりたくなっちゃう。もったいないわよね。そんなものなくても自分が十分にいい素材なんだって、全然気づいていないんだから。アタシもついつい口出しちゃうけど、こんなおじさんに説教されたってそういう子は気にもとめやしないわ」
あ、一応おじさんでいいんだ。
あくまでも明るいケンジさんの声に、私もつられて笑顔になる。
「だからね、美希ちゃんもこの肌を大切にしなさい。今の時期にしか持つことのできない、貴重な肌よ。あ、あと、過激なダイエットも駄目よ。肌まで痩せて、かさかさしわしわになっちゃうんだから!」
「はあ……」
幸い、ダイエットが必要なほど太ってはいない。むしろ、部分的にはもう少し脂肪がついてほしいところだ。
「美希はもうちょっと太ってもいいよ。俺はどっちかというと、ぽっちゃりと丸いほうが好み」
やっぱり男の人はそう思うよね。……いや、上坂の好みなんかどうでもいいんだけど。
「あいにくと、食べても太らない体質なんで」
「んまっ! なんて羨ましいの! アタシなんて、すぐ食べたものがついちゃうからうっかり食べ過ぎたりなんてできないのに!」
「ケンジさん、苦労してますもんね」
「それをわかってて、アタシの目の前でばくばく夜食食べるのはどこの誰よ!」
「だって俺、成長期だしー」
くつろいだ様子で、上坂とケンジさんは話を続けている。
仲、よさそうだな。ここ、上坂の行きつけってことなのかしら。いつも近所の美容室しか行ったことないけど、ここがかなりの高級な美容室だというのはわかる。
「さ、できたわ。はい、めがね」
カットクロスを脱がせて、ケンジさんがめがねを渡してくれる。それをかけると、満足そうなケンジさんの笑顔が見えた。
「いい? これから私が美希ちゃんにかわいくなるおまじないをかけるわ。ビビディ、バビディ……」
聞いたことのある魔女の呪文を唱えながら、ケンジさんはくるりと椅子を回した。
「ブー!」
カールした髪が、ふわりと浮いた。鏡の正面に座った私は、そこに映る自分に目を見張る。
そこにいたのは、栗色の髪をした可愛い女性。
やたらと髪にスプレーをかけていると思ったら、色をつけていたのか。くるくるとアイロン巻いていたけど、思ったよりきつくない。ゆるいウェーブをかけただけなのに、だぼっとしてた髪が全然重さを感じさせない仕上がりになっている。
なにより。
え、なんでこんなに目がぱっちりしてんの? 眉を整えただけで、こんなに表情ってかわるものなの? 唇がつやつやなのは、リップのせい?
自分のこと、ブスだとは思ってなかったけど……えええ、私って、結構かわいいじゃない。
「どう?」
「これ……私……」
うんうん、とケンジさんは満足そうにうなずいている。
「原石がいいから、ちょっと磨いただけでここまで光るのよ。蓮、すごい掘り出し物ね!」
「でしょ? 今のままでも十分綺麗だけど、手を入れたらどうなるかな、と思って連れてきたんだ」
「まだまだ開発しがいがありそう。ぜひまた連れていらっしゃいよ」
「機会があったらね」
椅子から立ち上がった私に、上坂は手をさしだした。
「さ、行こうか、お姫様」
小さい声で謝ると、ケンジさんは一瞬だけ動きを止めた後、けらけらと笑いだした。
「やだー、謝らなくてもいいよの。確かに、制服にケバいメイクは似合わないもの。アタシだってそういうコには、頭からクレンジングオイルぶっかけてやりたくなっちゃう。もったいないわよね。そんなものなくても自分が十分にいい素材なんだって、全然気づいていないんだから。アタシもついつい口出しちゃうけど、こんなおじさんに説教されたってそういう子は気にもとめやしないわ」
あ、一応おじさんでいいんだ。
あくまでも明るいケンジさんの声に、私もつられて笑顔になる。
「だからね、美希ちゃんもこの肌を大切にしなさい。今の時期にしか持つことのできない、貴重な肌よ。あ、あと、過激なダイエットも駄目よ。肌まで痩せて、かさかさしわしわになっちゃうんだから!」
「はあ……」
幸い、ダイエットが必要なほど太ってはいない。むしろ、部分的にはもう少し脂肪がついてほしいところだ。
「美希はもうちょっと太ってもいいよ。俺はどっちかというと、ぽっちゃりと丸いほうが好み」
やっぱり男の人はそう思うよね。……いや、上坂の好みなんかどうでもいいんだけど。
「あいにくと、食べても太らない体質なんで」
「んまっ! なんて羨ましいの! アタシなんて、すぐ食べたものがついちゃうからうっかり食べ過ぎたりなんてできないのに!」
「ケンジさん、苦労してますもんね」
「それをわかってて、アタシの目の前でばくばく夜食食べるのはどこの誰よ!」
「だって俺、成長期だしー」
くつろいだ様子で、上坂とケンジさんは話を続けている。
仲、よさそうだな。ここ、上坂の行きつけってことなのかしら。いつも近所の美容室しか行ったことないけど、ここがかなりの高級な美容室だというのはわかる。
「さ、できたわ。はい、めがね」
カットクロスを脱がせて、ケンジさんがめがねを渡してくれる。それをかけると、満足そうなケンジさんの笑顔が見えた。
「いい? これから私が美希ちゃんにかわいくなるおまじないをかけるわ。ビビディ、バビディ……」
聞いたことのある魔女の呪文を唱えながら、ケンジさんはくるりと椅子を回した。
「ブー!」
カールした髪が、ふわりと浮いた。鏡の正面に座った私は、そこに映る自分に目を見張る。
そこにいたのは、栗色の髪をした可愛い女性。
やたらと髪にスプレーをかけていると思ったら、色をつけていたのか。くるくるとアイロン巻いていたけど、思ったよりきつくない。ゆるいウェーブをかけただけなのに、だぼっとしてた髪が全然重さを感じさせない仕上がりになっている。
なにより。
え、なんでこんなに目がぱっちりしてんの? 眉を整えただけで、こんなに表情ってかわるものなの? 唇がつやつやなのは、リップのせい?
自分のこと、ブスだとは思ってなかったけど……えええ、私って、結構かわいいじゃない。
「どう?」
「これ……私……」
うんうん、とケンジさんは満足そうにうなずいている。
「原石がいいから、ちょっと磨いただけでここまで光るのよ。蓮、すごい掘り出し物ね!」
「でしょ? 今のままでも十分綺麗だけど、手を入れたらどうなるかな、と思って連れてきたんだ」
「まだまだ開発しがいがありそう。ぜひまた連れていらっしゃいよ」
「機会があったらね」
椅子から立ち上がった私に、上坂は手をさしだした。
「さ、行こうか、お姫様」