土曜日の朝。

 なんとなく落ち着かない気持ちのまま家の前で待っていると、約束の時間ぴったりに、上坂は角を曲がって現れた。

「美希、おはよ! 待っててくれたの? わー、ミニスカートだ、かわいい!」

 私の姿を見つけると、上坂は、ぱ、と顔を輝かせた。

「おはよ。制服だって、ミニスカートじゃない。そんな珍しいもんじゃないわよ」




 何着て行こうか迷ってクローゼットをひっくり返しているところを莉奈さんに見つかった。そして、私は着ないから、と言って持ってきてくれたのがこのブルーのミニスカート。一目ぼれして買ったんだけど、拓兄にミニスカートを禁止にされたそうで……莉奈さんの足を他の男に見せたくないって、どんだけ独占欲が強いの、兄貴。




「それとこれとは別! 美希の足って、ホントきれいだよねー……で、なんで、そんな顔してんの? どっか具合悪い?」

 おそらく仏頂面になっているだろう私の顔を覗き込む。

 だって……力入れてないと、頬がにやける。

 かわいい、なんて言われて舞い上がっているようじゃ、私もまだまだ修行不足。

「別に」

 それだけ言うと、私はさっさと歩き始めた。いつまでも自分ちの前でぐだぐだしてて誰かに見つかるのは避けたい。莉奈さんあたりは、どっかで見ているだろうけど。




「今日は、髪しばってないんだ」

 隣に並んだ上坂が、私の髪に目を止める。

 学校へ行くときは、長い髪を一つにまとめている。一応校則では長髪はゴムでとめるようになっているけれど、それほど厳しい規則じゃないから、冴子みたいに縛っていない子も多い。私が律儀に一つまとめにしているのは、授業中に邪魔だからだ。

 それを今日は流したままなのは……たまたまよ、たまたま。おしゃれとかじゃなくて。うん。




「学校行くわけじゃないし」

「綺麗な髪だなあ」

 何気ない仕草で、上坂が私の髪を持ち上げた。

「勝手に触んないでよ」

「少しくらいいいじゃん。美希の髪、ホント綺麗だよね。しっとりした手触りで、俺、好き。パーマとかかけたことない?」

「パーマは、禁止よ」

「そんなこと気にしないで、みんなやってるよ? 美希は真面目だなあ」

 けらけらと笑う上坂に、む、とする。

 髪は、清潔ならいいと思うだけ。わざわざ校則を破ってまで髪の毛をいじりたいというほどの欲求がないし。それだけのこと。




「俺の髪も、綺麗だって言ってくれたよね」

「そうだっけ?」

「またまたー。でもこれ、雨の日だけはだめなんだ。少ししけってくると、すーぐくるくるくるーって」

 おどけながら言ったその顔に、思わずくすりと笑ってしまう。

「美希も、こういう髪にしてみたいって思う?」

「私には、似合わないわよ」

「んー、確かに美希にはロングストレート似合ってるけど……」

 上坂は少し考えるそぶりを見せると、ぽん、と手を叩いた。




「ね、映画の時間ずらしてもいい?」

「いいけど……なんで?」

「行きたいとこができた」

「どこ?」

 今日は、映画を見に行く予定だったからスカートだったけど、歩くんだったら、今ならまだ着替えに戻れる。

「まあいいから、ついてきて」