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「何、着て行こうかな……」

 週末、金曜日。授業の合間の休み時間に、私はぼーっと窓から外を見ていた。無意識のうちに口に出していたらしく、それと耳ざとく聞きつけた冴子が反応する。




「もしかして、明日のデートの服?」

「デートって……デートだけど……」

 それを認めるのはなんか悔しい気がするし、そのために服装を考えていたなんて知られるのは、もっと悔しい。

「珍しいわね。美希が服装のことで悩むなんて」

「そう?」

「少なくとも、私と遊びに行くときにスカートはいてきたことはないわね。いい傾向よ」

「別に、スカートはいてくって決めたわけじゃないけど……」

「はいてけ、はいてけ。その細い脚、若いうちに見せておけ」

「冴子、発言が親父っぽい」

 笑いながら視線を戻すと、校庭に次の時間が体育らしいクラスがわらわらと出てきた。

「あ」

 うっかりあげてしまった私の声で、冴子も気づいた。

「五組、次体育なんだ」 

 体操服の集団の中に、上坂を見つけてしまった。同時に、上坂も私に気づく。




 やつは、少しだけ微笑むと、私に向かって片手をあげた。それを見ていた周りの男子にからかわれたらしく、みんなで小突き合いながら笑っている。そんな風にじゃれる様子は、こっちから見ていても微笑ましい。

 相変わらずだなあ。




「ずいぶんと仲良くなったじゃない」

「そうでもないわよ」

「じゃあその手は何よ」

 軽く振り返した私の手を、冴子がじーっと見つめている。

 まあ、一応手くらいは降り返してやっても、いいかなー、って……そんなたいした意味はないわよ。ないわよ。

 口に出したら言葉通りじゃない感情がにじんでしまいそうで、私は黙ったままだった。

「調子に乗っていると、裏切られるのはあなたの方よ」

 ふいに冷たい声が背後からかけられた。振り返ると、薄く笑った青石さんだった。ちょうど、席に戻るとこらしい。




「どういう意味?」

「そのまんまの意味よ」

「上坂のイマカノに妬いてんの?」

 冴子がよこやりを入れると、青石さんは、む、とした顔になる。

「忠告しただけよ。せいぜいその優秀な頭で考えてみたら? 蓮が、あんたなんかに本気になるはずないってこと。どうせ他の女みたいに、すぐに飽きて捨てられるだけよ」

「ふーん」

 ま、私もそうは思うけど。




 そうだよね。上坂が女とつき合う時って、いつもそんな感じ。青石さんだって、きっとそうやって上坂とつきあって、別れてきたんだろう。




 青石さんは、今でも上坂のこと好きなんだろうな。どれほど私が恋愛にうとくても、それくらいはわかる。

 今、どんな、気持ちなんだろう。




 私の反応が薄かったせいか、それ以上何も言わず、青石さんは私に背を向けて、席へと歩いていった。そこで、今のやり取りを見ていたらしい玉木さんと何か話をして、二人してこっちを見てくすくすと笑っている。




「どういうんだろうね、あれ」

 呆れたように、冴子が言った。

「ぼちぼち、私も身の回りに気をつけた方がいいかな」

「そうね。あんた意外にドジなとこあるから」

「そんな風に言ってくれるのは、あんただけよ」

「学年トップの頭脳を持った才女が、実はおしゃれに興味のないドジっこだったって?」

「そこまでひどくない。……と思う」

 ちょうどその時チャイムが鳴って、私たちは笑いながら席へと戻った。




 明日は、新月。