☆
「何、着て行こうかな……」
週末、金曜日。授業の合間の休み時間に、私はぼーっと窓から外を見ていた。無意識のうちに口に出していたらしく、それと耳ざとく聞きつけた冴子が反応する。
「もしかして、明日のデートの服?」
「デートって……デートだけど……」
それを認めるのはなんか悔しい気がするし、そのために服装を考えていたなんて知られるのは、もっと悔しい。
「珍しいわね。美希が服装のことで悩むなんて」
「そう?」
「少なくとも、私と遊びに行くときにスカートはいてきたことはないわね。いい傾向よ」
「別に、スカートはいてくって決めたわけじゃないけど……」
「はいてけ、はいてけ。その細い脚、若いうちに見せておけ」
「冴子、発言が親父っぽい」
笑いながら視線を戻すと、校庭に次の時間が体育らしいクラスがわらわらと出てきた。
「あ」
うっかりあげてしまった私の声で、冴子も気づいた。
「五組、次体育なんだ」
体操服の集団の中に、上坂を見つけてしまった。同時に、上坂も私に気づく。
やつは、少しだけ微笑むと、私に向かって片手をあげた。それを見ていた周りの男子にからかわれたらしく、みんなで小突き合いながら笑っている。そんな風にじゃれる様子は、こっちから見ていても微笑ましい。
相変わらずだなあ。
「ずいぶんと仲良くなったじゃない」
「そうでもないわよ」
「じゃあその手は何よ」
軽く振り返した私の手を、冴子がじーっと見つめている。
まあ、一応手くらいは降り返してやっても、いいかなー、って……そんなたいした意味はないわよ。ないわよ。
口に出したら言葉通りじゃない感情がにじんでしまいそうで、私は黙ったままだった。
「調子に乗っていると、裏切られるのはあなたの方よ」
ふいに冷たい声が背後からかけられた。振り返ると、薄く笑った青石さんだった。ちょうど、席に戻るとこらしい。
「どういう意味?」
「そのまんまの意味よ」
「上坂のイマカノに妬いてんの?」
冴子がよこやりを入れると、青石さんは、む、とした顔になる。
「忠告しただけよ。せいぜいその優秀な頭で考えてみたら? 蓮が、あんたなんかに本気になるはずないってこと。どうせ他の女みたいに、すぐに飽きて捨てられるだけよ」
「ふーん」
ま、私もそうは思うけど。
そうだよね。上坂が女とつき合う時って、いつもそんな感じ。青石さんだって、きっとそうやって上坂とつきあって、別れてきたんだろう。
青石さんは、今でも上坂のこと好きなんだろうな。どれほど私が恋愛にうとくても、それくらいはわかる。
今、どんな、気持ちなんだろう。
私の反応が薄かったせいか、それ以上何も言わず、青石さんは私に背を向けて、席へと歩いていった。そこで、今のやり取りを見ていたらしい玉木さんと何か話をして、二人してこっちを見てくすくすと笑っている。
「どういうんだろうね、あれ」
呆れたように、冴子が言った。
「ぼちぼち、私も身の回りに気をつけた方がいいかな」
「そうね。あんた意外にドジなとこあるから」
「そんな風に言ってくれるのは、あんただけよ」
「学年トップの頭脳を持った才女が、実はおしゃれに興味のないドジっこだったって?」
「そこまでひどくない。……と思う」
ちょうどその時チャイムが鳴って、私たちは笑いながら席へと戻った。
明日は、新月。
「何、着て行こうかな……」
週末、金曜日。授業の合間の休み時間に、私はぼーっと窓から外を見ていた。無意識のうちに口に出していたらしく、それと耳ざとく聞きつけた冴子が反応する。
「もしかして、明日のデートの服?」
「デートって……デートだけど……」
それを認めるのはなんか悔しい気がするし、そのために服装を考えていたなんて知られるのは、もっと悔しい。
「珍しいわね。美希が服装のことで悩むなんて」
「そう?」
「少なくとも、私と遊びに行くときにスカートはいてきたことはないわね。いい傾向よ」
「別に、スカートはいてくって決めたわけじゃないけど……」
「はいてけ、はいてけ。その細い脚、若いうちに見せておけ」
「冴子、発言が親父っぽい」
笑いながら視線を戻すと、校庭に次の時間が体育らしいクラスがわらわらと出てきた。
「あ」
うっかりあげてしまった私の声で、冴子も気づいた。
「五組、次体育なんだ」
体操服の集団の中に、上坂を見つけてしまった。同時に、上坂も私に気づく。
やつは、少しだけ微笑むと、私に向かって片手をあげた。それを見ていた周りの男子にからかわれたらしく、みんなで小突き合いながら笑っている。そんな風にじゃれる様子は、こっちから見ていても微笑ましい。
相変わらずだなあ。
「ずいぶんと仲良くなったじゃない」
「そうでもないわよ」
「じゃあその手は何よ」
軽く振り返した私の手を、冴子がじーっと見つめている。
まあ、一応手くらいは降り返してやっても、いいかなー、って……そんなたいした意味はないわよ。ないわよ。
口に出したら言葉通りじゃない感情がにじんでしまいそうで、私は黙ったままだった。
「調子に乗っていると、裏切られるのはあなたの方よ」
ふいに冷たい声が背後からかけられた。振り返ると、薄く笑った青石さんだった。ちょうど、席に戻るとこらしい。
「どういう意味?」
「そのまんまの意味よ」
「上坂のイマカノに妬いてんの?」
冴子がよこやりを入れると、青石さんは、む、とした顔になる。
「忠告しただけよ。せいぜいその優秀な頭で考えてみたら? 蓮が、あんたなんかに本気になるはずないってこと。どうせ他の女みたいに、すぐに飽きて捨てられるだけよ」
「ふーん」
ま、私もそうは思うけど。
そうだよね。上坂が女とつき合う時って、いつもそんな感じ。青石さんだって、きっとそうやって上坂とつきあって、別れてきたんだろう。
青石さんは、今でも上坂のこと好きなんだろうな。どれほど私が恋愛にうとくても、それくらいはわかる。
今、どんな、気持ちなんだろう。
私の反応が薄かったせいか、それ以上何も言わず、青石さんは私に背を向けて、席へと歩いていった。そこで、今のやり取りを見ていたらしい玉木さんと何か話をして、二人してこっちを見てくすくすと笑っている。
「どういうんだろうね、あれ」
呆れたように、冴子が言った。
「ぼちぼち、私も身の回りに気をつけた方がいいかな」
「そうね。あんた意外にドジなとこあるから」
「そんな風に言ってくれるのは、あんただけよ」
「学年トップの頭脳を持った才女が、実はおしゃれに興味のないドジっこだったって?」
「そこまでひどくない。……と思う」
ちょうどその時チャイムが鳴って、私たちは笑いながら席へと戻った。
明日は、新月。