「私?」
は、としたように、上坂が慌てる。
「あ、ごめん。変な意味じゃなくて……」
「いいわよ。つまんない人間なのは本当だから」
青石さんなんかと比べたら私って、どう考えたって遊びが上手とは思えないし、かわいくもない。
……不釣り合いって言われるわけだ。あ、嫌なこと思い出しちゃった。
「いや、そう思ってたけど……意外に美希って、感情出るんだなあって。えーと、落ち着いた雰囲気で勉強のできる女子だな、くらいしか前は思ってなかったけどさ、予想外のことされると美希って意外に動揺するし、それに……」
「それに?」
一度開いた口を閉じて、上坂は、じ、と私を見つめた。
「何よ」
「……いや。それに、楽しいと、そんな風に笑ったりもするんだ」
「今の、ものすごく言葉を選んでくれたでしょ。暗いがり勉だってはっきり言ってくれてもいいわよ。前から鉄仮面とか呼ばれてんのも知ってるし。他人に何言われようと構やしないわ。仲のいい人たちは、ちゃんと私のことわかってくれてるもの」
「クールビューティーは知らなくても鉄仮面は知っていたのか」
「悪口程、耳に入りやすいのよ」
「ああ……そうだな」
ふ、と上坂が笑う。
……うん、上坂だって、そんな風に笑えるんじゃない。わずかに目を細めた優しい笑顔を、黙って見返す。そんな表情、学校では見たことがないわ。
しみじみした声で、上坂が呟く。
「美希って、他にどんな顔があるのかなあ」
「たいして面白い事もないわよ?」
「それでも」
何かを考え込みながら、上坂は言った。
「お前のこと知りたいし……俺のことも……」
「……上坂の、こと?」
聞き返すと、我に返ったように上坂が目を見張った。
「なんでもない。それよりさ、今度の週末だけど……」
それから上坂は、いつものように明るい態度で食事を続けた。
☆
「本日は、ありがとうございました」
食事が終わって立ち上がると、さっき席まで案内してくれた年配の男性が深々と頭をさげた。上坂は、そのまま支払いもせずに店を出ようとする。
「上坂、支払いは?」
「ここ、いつもツケだから」
「へ?」
すたすたと店を出てしまう上坂を追おうとして、私は立ち止まった。見送ってくれる男性に、私はにこりと笑う。
「ごちそうさまでした。とても、おいしかったです」
と、なぜかその男性は目を丸くした。でもそれも一瞬で、すぐにまた笑顔に戻る。
「お気をつけて。ぜひまたおいでください」
そのお誘いに気軽に、はい、とは言えず、あいまいに笑って私は上坂の後を追った。
店の外で私を待っていた上坂に追いつくと、上坂は妙な顔で私を待っていた。
「あの……ごちそうさま」
ぺこりと頭を下げる。
どうせ手持ちもないし、いいや、ここは素直におごられておこう。どれほど高いランチだったのかなんて、考えるのはちょっと怖いけど。
顔をあげると、上坂はめずらしく真面目な顔をしていた。
「上坂?」
「ああ……うん……」
「でも、こういうの、もうやめてよ。ワンピース代は、来月お小遣いもらったらちゃんと払うから」
ブティックでちらりと見た値札は三ヶ月分のお小遣いが飛んでく額だったけど、もらいっぱなしってわけにはいかない。
は、としたように、上坂が慌てる。
「あ、ごめん。変な意味じゃなくて……」
「いいわよ。つまんない人間なのは本当だから」
青石さんなんかと比べたら私って、どう考えたって遊びが上手とは思えないし、かわいくもない。
……不釣り合いって言われるわけだ。あ、嫌なこと思い出しちゃった。
「いや、そう思ってたけど……意外に美希って、感情出るんだなあって。えーと、落ち着いた雰囲気で勉強のできる女子だな、くらいしか前は思ってなかったけどさ、予想外のことされると美希って意外に動揺するし、それに……」
「それに?」
一度開いた口を閉じて、上坂は、じ、と私を見つめた。
「何よ」
「……いや。それに、楽しいと、そんな風に笑ったりもするんだ」
「今の、ものすごく言葉を選んでくれたでしょ。暗いがり勉だってはっきり言ってくれてもいいわよ。前から鉄仮面とか呼ばれてんのも知ってるし。他人に何言われようと構やしないわ。仲のいい人たちは、ちゃんと私のことわかってくれてるもの」
「クールビューティーは知らなくても鉄仮面は知っていたのか」
「悪口程、耳に入りやすいのよ」
「ああ……そうだな」
ふ、と上坂が笑う。
……うん、上坂だって、そんな風に笑えるんじゃない。わずかに目を細めた優しい笑顔を、黙って見返す。そんな表情、学校では見たことがないわ。
しみじみした声で、上坂が呟く。
「美希って、他にどんな顔があるのかなあ」
「たいして面白い事もないわよ?」
「それでも」
何かを考え込みながら、上坂は言った。
「お前のこと知りたいし……俺のことも……」
「……上坂の、こと?」
聞き返すと、我に返ったように上坂が目を見張った。
「なんでもない。それよりさ、今度の週末だけど……」
それから上坂は、いつものように明るい態度で食事を続けた。
☆
「本日は、ありがとうございました」
食事が終わって立ち上がると、さっき席まで案内してくれた年配の男性が深々と頭をさげた。上坂は、そのまま支払いもせずに店を出ようとする。
「上坂、支払いは?」
「ここ、いつもツケだから」
「へ?」
すたすたと店を出てしまう上坂を追おうとして、私は立ち止まった。見送ってくれる男性に、私はにこりと笑う。
「ごちそうさまでした。とても、おいしかったです」
と、なぜかその男性は目を丸くした。でもそれも一瞬で、すぐにまた笑顔に戻る。
「お気をつけて。ぜひまたおいでください」
そのお誘いに気軽に、はい、とは言えず、あいまいに笑って私は上坂の後を追った。
店の外で私を待っていた上坂に追いつくと、上坂は妙な顔で私を待っていた。
「あの……ごちそうさま」
ぺこりと頭を下げる。
どうせ手持ちもないし、いいや、ここは素直におごられておこう。どれほど高いランチだったのかなんて、考えるのはちょっと怖いけど。
顔をあげると、上坂はめずらしく真面目な顔をしていた。
「上坂?」
「ああ……うん……」
「でも、こういうの、もうやめてよ。ワンピース代は、来月お小遣いもらったらちゃんと払うから」
ブティックでちらりと見た値札は三ヶ月分のお小遣いが飛んでく額だったけど、もらいっぱなしってわけにはいかない。