「か、上坂!」
「なに?」
「ここ……とてもじゃないけど、私のお財布で払えるような店じゃないでしょ?!」
「今日はおごり」
「だめだって!」
ひそやかなクラシックの流れる店では、文句を言おうにもあまり大きな声も出せない。
店の中にはぽつりぽつりとお客さんがいたけど、いずれもマダムや上品な紳士ばかり。どうみても、十代の私たちに似合うようなレストランじゃない。
それに、店の前にメニューとか置いてなかったけど、テーブルに出されている料理を眺めるに、おそらくここ、かなり高級なフレンチのお店!
その男性に通された席は、他の場所からは見えないように区切られた席だった。落ち着かないまま座ると、勝手に料理が運ばれてくる。ランチとは言っても、どうやらコースになっているらしかった。
「アスパラガスのポタージュです」
目の前に置かれた黄緑色のスープを、じ、と見下ろす。
ああもう、出されちゃったものはしょうがない。
腹くくって食べるとしよう。うん、こんな仏頂面してたら、ご飯に失礼。
私は、覚悟を決めて手を合わせると、いただきますをしてスプーンを手にした。
「……おいし!」
一口飲むと、ふわりと軽い舌触り。青臭さは全然感じられず、なのにちゃんとアスパラの風味が残っている。
「そう?」
上坂は、特に感動するでもなくスープを飲んでいる。テリーヌを添えたサラダは、レタスがぱりぱりでドレッシングが最高! 何が入ってるんだろう、このドレッシング。フレンチ、だけど、少しだけ隠し味にしょうゆも使ってる? ぴりりとしてるのは、もしかしてわさび? うーん。
メインは、牛肉。出してくれた人は、グリエって言ってたかな。直火で焼いた網の跡が食欲をそそる。周りにつけあわされた温野菜も、歯ごたえ良く肉の味を邪魔しない。しかもトリュフソースときた。……でも、どれがトリュフの味なのかよくわからない。食べたことないしなあ、トリュフ。
「……美希ってさあ」
「なに?」
お肉の柔らかい歯ごたえとソースをじっくり味わっていると、上坂が感心したようにいった。
「こないだカツサンド食ってる時にも思ったけど、ホント、うまそうに食うよな」
「だって美味しいんだもの。こんな風にコースになっているお料理って、初めて食べた。美味しいご飯って、人を幸せにするよね」
普段は食べられない豪華な食事に、私のテンションもあがっているらしい。
「大げさだなあ。そこそこうまいとは思うけど」
「あんた、この料理を食べて感動もしないなんて、人生絶対損してる!」
「……まあ、喜んでくれたならいいよ」
「うん、嬉しい。連れてきてくれて、ありがとう」
食べ物につられて機嫌よく笑った私に、上坂は目を丸くして口をつぐんだ。
けど、ふと気づく。
こんな美味しい料理を食べ慣れている上坂。そんな人に私のお弁当って、どうなんだろう。私の作るお弁当と言ったら本当に普通の庶民的なものだもんなあ。夕べのお夕飯の残りとかいれちゃうし。
ついつい手を止めて考え込んでいた私の耳に、独り言のようなつぶやきが聞こえた。
「もっとつまんない奴かと思ってたのになあ……」
顔をあげると、どことなく途方にくれたような上坂と目があう。
「なに?」
「ここ……とてもじゃないけど、私のお財布で払えるような店じゃないでしょ?!」
「今日はおごり」
「だめだって!」
ひそやかなクラシックの流れる店では、文句を言おうにもあまり大きな声も出せない。
店の中にはぽつりぽつりとお客さんがいたけど、いずれもマダムや上品な紳士ばかり。どうみても、十代の私たちに似合うようなレストランじゃない。
それに、店の前にメニューとか置いてなかったけど、テーブルに出されている料理を眺めるに、おそらくここ、かなり高級なフレンチのお店!
その男性に通された席は、他の場所からは見えないように区切られた席だった。落ち着かないまま座ると、勝手に料理が運ばれてくる。ランチとは言っても、どうやらコースになっているらしかった。
「アスパラガスのポタージュです」
目の前に置かれた黄緑色のスープを、じ、と見下ろす。
ああもう、出されちゃったものはしょうがない。
腹くくって食べるとしよう。うん、こんな仏頂面してたら、ご飯に失礼。
私は、覚悟を決めて手を合わせると、いただきますをしてスプーンを手にした。
「……おいし!」
一口飲むと、ふわりと軽い舌触り。青臭さは全然感じられず、なのにちゃんとアスパラの風味が残っている。
「そう?」
上坂は、特に感動するでもなくスープを飲んでいる。テリーヌを添えたサラダは、レタスがぱりぱりでドレッシングが最高! 何が入ってるんだろう、このドレッシング。フレンチ、だけど、少しだけ隠し味にしょうゆも使ってる? ぴりりとしてるのは、もしかしてわさび? うーん。
メインは、牛肉。出してくれた人は、グリエって言ってたかな。直火で焼いた網の跡が食欲をそそる。周りにつけあわされた温野菜も、歯ごたえ良く肉の味を邪魔しない。しかもトリュフソースときた。……でも、どれがトリュフの味なのかよくわからない。食べたことないしなあ、トリュフ。
「……美希ってさあ」
「なに?」
お肉の柔らかい歯ごたえとソースをじっくり味わっていると、上坂が感心したようにいった。
「こないだカツサンド食ってる時にも思ったけど、ホント、うまそうに食うよな」
「だって美味しいんだもの。こんな風にコースになっているお料理って、初めて食べた。美味しいご飯って、人を幸せにするよね」
普段は食べられない豪華な食事に、私のテンションもあがっているらしい。
「大げさだなあ。そこそこうまいとは思うけど」
「あんた、この料理を食べて感動もしないなんて、人生絶対損してる!」
「……まあ、喜んでくれたならいいよ」
「うん、嬉しい。連れてきてくれて、ありがとう」
食べ物につられて機嫌よく笑った私に、上坂は目を丸くして口をつぐんだ。
けど、ふと気づく。
こんな美味しい料理を食べ慣れている上坂。そんな人に私のお弁当って、どうなんだろう。私の作るお弁当と言ったら本当に普通の庶民的なものだもんなあ。夕べのお夕飯の残りとかいれちゃうし。
ついつい手を止めて考え込んでいた私の耳に、独り言のようなつぶやきが聞こえた。
「もっとつまんない奴かと思ってたのになあ……」
顔をあげると、どことなく途方にくれたような上坂と目があう。