☆
「なによ、これ?!」
「美希、グリーン嫌い?」
「そういう問題じゃなくて!」
この格好じゃまずいな、とつぶやいた上坂が私をつれてきたのは、駅前のブティックだった。マネキンの着ている服はどれも素敵だったけど……私が見てもわかる、高そうなものばかり。
「じゃ、着て。早く早く。ランチ、終わっちゃう」
急かされて試着室に押し込まれた私は、わけのわからないまま上坂に渡されたワンピースに着替える。
明るいカーキ色のそれは、さらりとした肌触りが気持ちよかった。ウエストを絞ったデザインで、胸元のレースが甘すぎない程度に可愛い。
こんなかわいい服、着たことないや。制服より長めのスカート丈なのに、なんだか足元が心もとない。
「着たわよ」
試着室のカーテンを開けると、上坂が目を丸くした。その上坂も、制服ではないジャケットを着ている。こっちは、文句なしにかっこいい。スラックスは制服のままだけど、それがまたカジュアルなスーツっぽく見えて、いかにもセレブな感じ。
「……変?」
無言になってしまった上坂に声をかけると、我に返ったようにぶんぶんと首を振った。
「ううん、めっちゃ、似合う。すげー、可愛い」
言いながら、近づいてきた上坂が私の背中に手をまわす。
え?
抱きしめられるようなその姿勢に驚く暇もなく、くん、と髪を引っ張られる感覚。
「うん、こっちの方がいい」
離れた上坂の手には、私の髪を止めていたゴム。ああ、髪をほどいたのか。
……不用意に、近づかないで欲しい。
「じゃ、これ着てくんで」
上坂は、そこに控えていた店員さんに振り向くと言った。いつの間にか彼女は、試着室に脱いであった私の制服を抱えている。
「かしこまりました」
「は?」
店員さんは、驚く私の背後に回って、さっさと値札を切ってしまった。あたふたと混乱する私を、上坂が急かす。
「早く行こ。俺、腹減っちゃったよ」
「でも、服……!」
「ありがとうございました」
にこやかに店員さんに見送られて店を出る。上坂の手には、二人分のカバンと、私の制服が入っているらしい紙袋が握られていた。
「ちょっと、上坂っ! なんで……」
「店入るのに、制服じゃまずいから。これも邪魔だな。コインロッカーにでも放り込んどくか」
「だからって、あっ、支払い!」
「いーの、いーの。あ、いつもの弁当のお礼ってことで」
「そんなわけには……上坂っ!」
私の話を聞こうとしない上坂は、なぜかやけにご機嫌だった。
振り回されている……
そんな自分を自覚しながら、私は上坂のあとを追った。
☆
「いらっしゃいませ、上坂様」
品の良い年配の男性が、上坂に向かって丁寧にお辞儀する。
「ランチ、まだ食える?」
「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」
ランチ。
私の中のランチのイメージは、軽くてお得なお昼ご飯、って感じなんだけど。
上坂がひょいと気軽に入ったのは、そのイメージとは百八十度かけ離れたおちついた感じのレストランだった。
「なによ、これ?!」
「美希、グリーン嫌い?」
「そういう問題じゃなくて!」
この格好じゃまずいな、とつぶやいた上坂が私をつれてきたのは、駅前のブティックだった。マネキンの着ている服はどれも素敵だったけど……私が見てもわかる、高そうなものばかり。
「じゃ、着て。早く早く。ランチ、終わっちゃう」
急かされて試着室に押し込まれた私は、わけのわからないまま上坂に渡されたワンピースに着替える。
明るいカーキ色のそれは、さらりとした肌触りが気持ちよかった。ウエストを絞ったデザインで、胸元のレースが甘すぎない程度に可愛い。
こんなかわいい服、着たことないや。制服より長めのスカート丈なのに、なんだか足元が心もとない。
「着たわよ」
試着室のカーテンを開けると、上坂が目を丸くした。その上坂も、制服ではないジャケットを着ている。こっちは、文句なしにかっこいい。スラックスは制服のままだけど、それがまたカジュアルなスーツっぽく見えて、いかにもセレブな感じ。
「……変?」
無言になってしまった上坂に声をかけると、我に返ったようにぶんぶんと首を振った。
「ううん、めっちゃ、似合う。すげー、可愛い」
言いながら、近づいてきた上坂が私の背中に手をまわす。
え?
抱きしめられるようなその姿勢に驚く暇もなく、くん、と髪を引っ張られる感覚。
「うん、こっちの方がいい」
離れた上坂の手には、私の髪を止めていたゴム。ああ、髪をほどいたのか。
……不用意に、近づかないで欲しい。
「じゃ、これ着てくんで」
上坂は、そこに控えていた店員さんに振り向くと言った。いつの間にか彼女は、試着室に脱いであった私の制服を抱えている。
「かしこまりました」
「は?」
店員さんは、驚く私の背後に回って、さっさと値札を切ってしまった。あたふたと混乱する私を、上坂が急かす。
「早く行こ。俺、腹減っちゃったよ」
「でも、服……!」
「ありがとうございました」
にこやかに店員さんに見送られて店を出る。上坂の手には、二人分のカバンと、私の制服が入っているらしい紙袋が握られていた。
「ちょっと、上坂っ! なんで……」
「店入るのに、制服じゃまずいから。これも邪魔だな。コインロッカーにでも放り込んどくか」
「だからって、あっ、支払い!」
「いーの、いーの。あ、いつもの弁当のお礼ってことで」
「そんなわけには……上坂っ!」
私の話を聞こうとしない上坂は、なぜかやけにご機嫌だった。
振り回されている……
そんな自分を自覚しながら、私は上坂のあとを追った。
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「いらっしゃいませ、上坂様」
品の良い年配の男性が、上坂に向かって丁寧にお辞儀する。
「ランチ、まだ食える?」
「もちろんでございます。どうぞ、こちらへ」
ランチ。
私の中のランチのイメージは、軽くてお得なお昼ご飯、って感じなんだけど。
上坂がひょいと気軽に入ったのは、そのイメージとは百八十度かけ離れたおちついた感じのレストランだった。